エスカレーターに乗って味わう未来都市
子供の頃、漫画やアニメに描かれる「未来の都市」の風景に心を躍らせていた。新しい乗り物が空を走り回ったり、チューブを通って人がびゅんびゅん移動したり、とりわけ「宙を駆け回る」描写に私は憧れていたように思う。
大学の頃に東京に出てきて興奮したのは、そんな「未来の都市」の片鱗が、街の中に「もう存在している」ことだった。例えば、地下鉄の押上駅を降りると、目の前には空中を交差して走る〈東京ソラマチ®〉のエスカレーターが現れる。〈LIVIN OZ 大泉店〉のチューブエスカレーターは、夜には怪しく光り秘密結社のよう。大江戸線は地下深くを走ることで有名だが、飯田橋駅のエスカレーターは、長いだけではなく緑色のぐねぐねとした照明が謎の世界への入口を思わせる。
〈SHIBUYA SKY〉の屋上では、空へとそのまま飛び出していくようなエスカレーターで束の間の空中遊泳が楽しめる。〈泉ガーデンタワー〉では、ガラス張りの美しいトンネルの中を夢中で進んでいく体験が味わえる。新しくなった〈歌舞伎座〉は、赤絨毯の階段と思いきや、赤いステップが人を載せて、そのまま動きだす。
エスカレーター自体は、とりわけ新しい乗り物というわけではないし、ありふれたものと感じている人も多いと思う。でも、東京には、「宙を自由自在に駆け回る乗り物」としてのエスカレーターを楽しめる場所、未来の都市を実感できる場所が、もうすでに、たくさん存在しているのだ。