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森林が生まれ変わる。世界に誇る特殊伐採の妙技

住宅隣接地や線路、街路樹など、活動場所は林業というよりは、造園業に近いかもしれない。傾斜地が多く、森林が隣接する日本では、高度な伐採技術を要する場面が多い。独自に生み出された特殊伐採の技術は、世界中から引っ張りだこだ。

Photo: Junmaru Sayama

木こりというと、木の根っこに切れ目を入れて、巨木を倒す姿をイメージするのが普通。しかし、木に登って上から伐採していく、特殊伐採という方法があるのを知っているだろうか。

そもそも、国土の約3分の2が森林で、同じように約3分の2が山地という日本では、クレーンなどの重機やトラックが侵入できない狭い場所や、傾斜地が多い。例えば、大木を伐採するときに、近隣に家や電線があったら……。つまり、必要に迫られて誕生し、磨かれた技術なのだ。

クライマーのようなスタイルに憧れて門戸を叩く若者も

クライミングロープを使って、木に登り、根元から切り倒すことなく、大きな木を伐採する。ツリークライミングを応用したロープワークが最高にクールなのだ。世界が注目するという素晴らしい技術を取材に行ってきた。

特殊伐採の設計図
事前に緻密に計画。ロープの張り方、滑車の使い方などは、物理学とも言える。特許に関わる部分はトリミング。
ヨットの道具を特殊伐採に活かす
トルクのあるヨット用のウインチをカスタム。木の太い幹にくくりつけ、100kg超えの大木も引き寄せる。コンピュータ画面の内容は企業秘密。

この日は2人1組。どの道具を持って木に登るか。役割分担や、互いのギアをチェックする。フェイスガード付きのヘルメット、ノコギリ以外、腰回りのハーネスには登山などで使うクライミングロープ、大きなカラビナにプーリーなどがぶら下がり本格的なクライマーそのもの。木こりのイメージが変わりそうだ。

まずは木を見上げて、人と伐採後の動線を考える。メインロープをどこに張るか。危険な枯れ木はないか。枝の伸び方や空間を見極め、木の切り方、運び方、下ろす場所や置き方まで、チェック項目は細かく多岐にわたる。

安全に配慮しながら手際良く。みるみる作業は進んでいく

ひとりがロープと糸で繋げられた錘をするりと投げ上げる。強度のありそうな幹を飛び越え、手際良くロープがかけられていく。もうひとりは別の針葉樹を登り始めていた。太い幹にロープを回し、ブーツに装着したスパイクをカツカツと樹皮に刺しながら器用に登っていく。

クライミング用のロープ以外に、命綱や、バランスを取るためのロープ、そして伐採した木を回収するためのロープなどが張られると、ついに作業は始まった。

限られた空間を道具と技で最大限活かす

家に覆いかぶさるように育った大木は、上の方から何回かに分けて切っては運び、短くしていく。伐採する係は自分のポジションを変えるために2本のロープを巧みに操り、上に下に、斜めに、自在に移動していく。伐採する木が落下しないようにロープを縛り付けたら、いよいよ切り出し。

世界に誇る特殊伐採の妙技
今回は、家に覆いかぶさっていた傾斜地の大木を伐採するミッション。
世界に誇る特殊伐採の妙技
伐採した木は、ロープに縛った状態のまま、滑車とウインチを使って少しずつ下ろす。

切断された木は、ぶらんとロープにぶら下がり、今度はゴンドラのように2本の木の間を移動し始める。回収する側の木の下では、木に固定したヨット用のウインチを使ってロープを巻き取っている。木は、ものの数十分で伐採・回収された。

聞けば道具やテクニックは、先人たちが少しずつ編み出してきたもので、日々進化しているという。この特殊伐採の技術を学びたいと、海外から研修の依頼が舞い込んでくることもあるとか。また、子供たちにツリークライミングを教えるプログラムなどを通じて、特殊伐採や森林に興味を持ってもらおうという試みも各地で行われている。

今回、撮影に協力していただいた田中雄一郎さん(右)と佐々木法雄さん(左)。現在は特殊伐採を専門に行う会社(株)マルイチにて活躍中。