本物?人形?心を込めたおもてなし
1300年代から金の採掘が始まり、江戸時代、そして明治から昭和にかけて栄華を誇った。産出量は佐渡金山に次いで大きく、これまでに金40トン、銀400トンが採掘されたという。昭和40年には金を掘り尽くして閉山。その後、昭和47年に観光施設「土肥金山」として生まれ変わることになる。
チケットを購入して、武家屋敷の門のような入り口へ進むとそこには侍姿の門番の人形が。近くを通りかかると「いらっしゃいませ!ようこそ土肥金山へ!」と腹の底から響くような美声でお辞儀しながらご挨拶。いきなりギョッとさせられるも中へと進む。
坑道の前には庭園が広がっている。池の中央には「黄金の夢」と題された黄金色の銅像。泳ぎ回る鯉をよく見れば、どれも金色だ。ここはまさに、伊豆のエルドラド。しかし、まだこれは序章にすぎない。
総延長100kmにも及ぶ坑道、
年間通して19℃をキープ
観光坑道の入り口が見えてきた。中へ入るとひんやりと涼しい。坑内は年間を通して19℃に保たれており、夏場は観光客からも「快適だ」と好評なのだとか。
「坑道は縦横に広がっており、総延長は約100km、深さは海面下180mにも及びます。そのうちの入り口から350mのところまでが、現在、観光坑道として公開されています」と解説してくれたのは、土肥金山を運営する土肥マリン観光株式会社課長代理の勝呂淳さん。いただいた名刺には、金の箔押しで「土肥金山」の文字が光る。
江戸時代の土肥の街の様子を表現したジオラマを見ながら坑道を奥へ進む。すると姿を現したのは「山神社(さんじんじゃ)」。かつてはどこの鉱山でも安全を祈願して坑道の入り口に山神社を祀っていたという。土肥金山では、そんな山神社を坑道内に移設。本物の金箔を貼った黄金の鳥居を立てて祀ってある。
さらに奥へ進む。荒々しい表情を見せるむき出しの岩盤をよく見ると、白い筋のように色が変わっている部分がある。「これが金鉱脈です。岩盤の間にある石英の中に金が含まれているんです。ちょっと試し掘りをしてみた跡が残っていますね」と勝呂さん。
電動人形たちが
繰り広げる時代絵巻
少し開けた場所へ出た。そこでは、電動人形たちが昔の採掘の模様を再現していた。坑道に溜まった水を抜く“水替作業”、坑内に空気を送り込む“送風”など、リアルな人形が独特のぎこちない動きで当時の様子を伝える。
坑内で湧き出した温泉で作られた“坑内風呂”では、「仕事の後の風呂はいいもんだなあ」「明日も頑張ろうよ」と人形たちが小芝居を繰り広げる。
「この人形たちは昭和47年のオープン当時から活躍してくれています。マネキンメーカーに特注で作ってもらったと聞いています」
しかし、どことなく違和感が……。その正体は人形たちがつけていたマスク。みんな金色のマスクをつけているのだ。
「コロナ禍が起きてからスタッフ用に金のマスクを作ったんです。それを人形たちにもつけさせました(笑)。すると、お客様から商品化してほしいという声が相次ぎ、現在は売店で販売しています」
金相場が高騰、
巨大金塊の価値が5倍に
暗い坑道を抜け、再び日差しが降り注ぐ庭園に出る。続いて向かうのは「黄金館」。ここには、江戸時代の様子を再現したジオラマのほか、様々な鉱石や江戸時代の貨幣など、金山にちなんだ資料の数々が展示されている。その中でも圧巻なのが、ギネスブックに認定されている世界一の巨大金塊。
重さは250kgもあり、金箔に伸ばすと東京ドーム2.6個分以上の大きさになるという。展示ケースに開いた穴から触れることができるのだが、これはご利益がありそうだ。
「平成12年に当時世界最大の200kgの金塊を作ったのですが、その4年後に台湾で220kgの金塊が作られてしまったんです。そこで、翌年に250kgの金塊を作って世界一の座を取り返しました。
作ったときの価値は4億1000万円だったのですが、その後、世界情勢の影響を受けて金相場が上がり、現在では当時の約5倍の21億8000万円の時価総額となっています。ぜひ、金の価値が高いうちに多くの人に触りに来ていただきたいですね」と勝呂さん。
まだ間に合うぞ、
ゴールドラッシュ!
金を見るだけではなく、体験して楽しむこともできる。人気の施設が「砂金館」。ここでは、大人750円で30分間の砂金採り体験ができる。パンニング皿という専用の道具を使い、砂をすくってゆすると重たい砂金が皿の下の方に沈んでいく。そうして上部の砂を捨てていくことで、砂金が皿に残るというわけだ。
定期的に大会も開かれており、最高記録は143粒とのこと。採れた砂金は小瓶に入れたり、アクセサリーにしたりして持ち帰ることができる。
一通り見学し終わると、観光スポット定番のお土産コーナー。ここも黄金で埋め尽くされている。金箔をのせた金箔カステラに金箔貼りのゴルフボール、小判形入浴剤と、目に入るものすべてが黄金色だ。
「土肥金山」を後にしながら改めて思った。人間、やっぱり黄金が大好きなのだ。