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【今日のギフト】老舗がひと筋に磨き続ける〈志“満ん草餅〉の草もち

あの人の笑顔が見たい。お世話になっている友達や家族、恋人に贈りたい、ちょっと楽しいプレゼントを毎日紹介。

photo: Shu Yamamoto / text&edit: Yoko Fujimori

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和菓子を愛してやまないあの人へ
よもぎの色と香りに胸おどる草もち

〈志“満ん草餅〉の草もち

明治2(1869)年創業、草餅ひと筋に歴史を紡ぐ餅菓子店〈志”満ん草餅(じまんくさもち)〉。初代が隅田川の船着き場のお隣に店を開いたのが始まりで、現在も変わらず墨田堤通り沿いに店を構える。

真ん中が凹んだユニークな草餅の形は、向島界隈を散策する江戸っ子たちのため、歩きながら食べてもきな粉がこぼれないよう初代が考案したものだ。

味の要となるよもぎは北海道産がメインで、初夏に摘んで新鮮なうちに大鍋で煮上げ、1年分を冷凍保存して使用。4代目店主の鈴木健志さん曰く「春先は葉の色は美しいが香りが淡く、秋冬は香りは強いけれど暗緑色になるので、色がよく香りも強い初夏のものがベスト」なのだとか。

餅生地を搗く工程も日々の試行錯誤から少しずつ改良し、よもぎの細かな繊維も断ち切れるよう、生地を1㎝ほどの薄さに伸ばして石臼で搗いていく。だからきめ細かで色艶のいい草餅に仕上がるのだが、手間も時間もかかるため、杵が1年ほどしかもたないそう。ヴィヴィッドな緑色も純粋なよもぎのみの色であり、コシがありつつ切れが良く、噛めばよもぎの青い香りが鮮やかに広がる。

「あん入り」用のこしあんは「微妙な渋を残したあんの方が、力強さがあってよもぎの香りに合うから」(鈴木さん)と、十勝産小豆を水から一気に炊き上げ、あえて渋切りなしで絞る。“食べ歩きスタイル”の元祖ともいうべき「あんなし」は、草餅自身のおいしさを楽しみたい常連に高い人気を誇り、草餅ときな粉の妙がたまらない。

気取らず気さくだけど、品がある。草餅一筋ゆえに、客の気付かぬところで味を磨き続ける心意気。店名通り思わず自慢したくなる、ちょっと特別な草餅だ。

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