Eat

Eat

食べる

今日のギフト:〈菓匠 青柳正家〉の菊最中

あの人の笑顔が見たい。お世話になっている友達や家族、恋人に贈りたい、ちょっと楽しいプレゼントを毎日紹介。

photo: Shu Yamamoto / text&edit: Yoko Fujimori

連載一覧へ

あんこを愛するあの人へ
“江戸の餡”を味わう向島の名作最中

〈菓匠 青柳正家〉の菊最中

昭和23(1948)年、向島に創業した〈菓匠 青柳正家〉。向島に多くの料亭が軒を連ねた華やかなりし時代、料亭の手土産として重宝された初代の羊羹がこの店のルーツだ。

味の要となるのは江戸の菓匠ならではの藤色に澄んだこし餡。北海道は羊蹄山の麓で採れる良質な小豆を使い、丹念にアクを取り除いて仕上げる餡は、食べれば豊かな香りとともにスルリと透明に溶けていく。

代表作の羊羹と並び、餡のおいしさを味わえるのが「菊最中」。由緒ある十六菊花紋を象った楕円の菊型の最中種に、2つのあんこ玉を重ねたユニークなフォルムが愛らしい。

これは戦後で甘いものが貴重だった時期、「お客にたっぷりと食べてほしい」との思いから初代が考案したもの。竹ベラを使い、2つのあんこ玉をほんの十数秒で成形していく手際はまさに職人技だ。

創業時から餡の材料は小豆と砂糖、少々の寒天のみ。保存料を使わずとも、最中の皮から覗くこし餡は乾くことなく3日間持つ。これも多くの経験の積み重ねから到達した老舗の技だ。もち米粉を香ばしく焼き上げた厚みのある最中種も、パリパリとした歯ざわりと香味が餡を引き立てる。

向島の料亭文化とともに育まれた、粋な佇まいの江戸最中。ちなみに、最中の上下を持ってクルリと捻り、2つに割って齧るのがお店おすすめの食べ方だ。

連載一覧へ