珍奇植物の聖地、ブラジル。東部シャパーダ・ディアマンティナを進む〜前編〜

珍奇植物の産地といえば南米かアフリカが、その多くを占める。中でもブラジルはその有数の産地の一つ。風変わりな植物のラベルを確認すると、原産地名としてブラジルがあることはしょっちゅうだ。ブラジルの中にも、多くの有名な植物の自生地があるが、今回はバイーア州にあるシャパーダ・ディアマンティナに狙いを定めた。

Photo: Tetsuya Ito / Text: Shogo Kawabata / Coordination: Narumi Tsuruta

テーブルマウンテンが育む
神秘の植物たち

熱帯植物を愛する人ならば、誰もが一度は思いを馳せる聖地・ブラジル。中でも、東部に位置するシンコラ山脈一帯は、シャパーダ・ディアマンティナ国立公園などの雄大な自然が広がっており、珍奇植物の宝庫として知られている。

巨大なテーブルマウンテンが連なり、周囲と隔絶された陸の孤島で、その土壌はミネラルが乏しいため大きな木が育たず、絶えず強い日差しが照りつける。決まった雨期もなく乾燥しており、厳しい環境を生き抜くために独自の進化を遂げたユニークな植物たちが数多く生息しているのだ。

そんなシャパーダ・ディアマンティナにひときわ強い憧れを抱いていたのが、珍奇植物専門ナーサリーで知られるスピーシーズ ナーサリーの藤川史雄さん。彼が専門とするブロメリアは、このシャパーダ・ディアマンティナの固有種も多く、一度は見てみたい自生地だった。

「極地で生き抜くため、水をたっぷりとため込むことができる壺のような形に進化したホヘンベルギア属は、この一帯に固有のものがほとんど。岩の間にしがみつくようにして生える、最近新属として独立したシンコラエア属なんかもほとんどがここにしかないし、僕にとっては聖地の中の聖地って感じ。昔、サンパウロまではティランジアを見に来たことはあるけど、ディアマンティナまでは行くことができなかったから」

Sempre Viva Projectの敷地内にある川
Sempre-Viva Projectの敷地内にある川。川底に堆積した枯れ木や枯れ葉などから染み出たタンニンなどによりブラックウォーターとなっていた。川岸には、なんとも気になるシンコラエアや蘭などが数多く着生していた。

そう、シャパーダ・ディアマンティナは、ブラジルが誇る世界的に有名な観光地ではあるが、アクセスが不便で、ブラジル人でもなかなか行ったことがない、という場所だった。日本から行くとなると、優に丸2日はかかった。国際線2本と国内線3本を乗り継ぎ、やっとの思いで辿り着いたそこは、切り立った崖のパノラマ。

風雨で荒々しく削り取られた岩場には、まぶしいほどの日差しが照りつけるが、猛暑という感じでもなく、高地ならではの程よい暑さ。夕方になるとフリースでも羽織りたくなるような気温となり、昼夜の寒暖差が大きい。

「荒涼としていてロストワールド感がハンパないよね。大きな木はほとんど育つことができないから、木陰もない。ブッシュに紛れたり、岩陰に隠れたりして必死に生き抜いてる植物ばかり。岩の割れ目に堆積したわずかな土壌をも貪欲に利用して、根を下ろしてる。こういう厳しい環境でこそ、ビザールな植物が生まれるんだよ。環境に適応するために、あり得ない姿へと変化するからね」

そう言って、すぐさま岩場に駆け上がったと思いきや、雄叫びを上げる藤川さん。
「レオポルドホルスティあった!多肉質なアシアンテラを背景にしたこの景色、コレコレ!見たかったのは。自分の大好きな植物が一緒に生えてたりするのが、ここの醍醐味の一つだね」

Morro do Pai Inácio(モーホ・ド・パイ・イナシオ)

砂漠の上を風雨によって砂が覆い、数十mにも積もった砂の層が自重で下部を圧縮し、地中に砂岩を形成した。その堆積岩が地層の隆起によって地上へと突き出したのが、パイ・イナシオのテーブルマウンテン。約15億年もの年月をかけ、風雨にさらされて削り取られたことで、現在の姿となった。

Mucugê(ムクジェ)

「シャパーダ・ディアマンティナ」とはダイヤモンドの高原という意味だ。その名の通りかつてダイヤモンドの採掘で栄え、同時に多くの自然が破壊された。ムクジェの町は、この地で初めてダイヤモンドが採掘された場所である。19世紀に造られたビザンチン様式のサンタ・イザベル墓地が、この町の観光名所となっている。

シャパーダ・ディアマンティナ
ムクジェ

Parque Municipal de Mucugê(パルケ・ムニシパル・デ・ムクジェ)

ムクジェ市立公園の自然保護区「センプレヴィヴァ・プロジェクト」。その名の通りセンプレヴィヴァ(Syngonanthus mucugensis)というホシクサ科の植物を保護するために設立された保護区だ。約270ヘクタールの広さを誇る敷地内には、多くの川も流れており、ホシクサだけではなく、様々な植物を育んでいる。

ブラジル パイ・イナシオのテーブルマウンテン
パイ・イナシオのテーブルマウンテンで夢中でブロメリアを撮影する藤川さん。ホヘンベルギア レオポルドホルスティの群生が、柱サボテンや岩着生の蘭に紛れて生えていた。