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夏はレゲエなんてクリシェは言いません。『The Harder They Come』ジミー・クリフ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.9

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『The Harder They Come』Original Soundtrack Recording(1972年)

夏はレゲエ、なんて
クリシェは言いません。

もう、ほぼ50年前の映画のサウンドトラックです。
この『The Harder They Co−me』はジャマイカ初の劇映画だったそうなんですが、古典的なストーリーをすごくリアリスティックに描いています。シナリオ的にはけっこう入り組んだ伏線が敷いてあるし、ドキュメンタリーっぽいカメラワークも迫力があって、それに主演のジミー・クリフが若くてカッコイイうえに役者としても説得力があって、素晴らしい。映画としても間違いなく楽しめる作品です。

ただ、セリフは英語なんですが、僕でも聞き取れなくて字幕がないとわからないところが少しありました。例えば、主人公が裏路地に迷い込んだときに露天でドミノをやっている連中に出くわすんだけれど、あのシーンは何を言ってるのかさっぱりわからなかった。あれは多分、パトワと呼ばれるジャマイカ英語なんだと思います。しかも、僕がロンドンにいた頃には観る機会はなく、初めて観たのは日本に来てからだったので字幕は日本語でした!

でも何はともあれ、サウンドトラックが最高です。僕は映画のサウンドトラックで『The Harder They Come』の上を行っている作品に、いまだかつて出逢ったことがありません。まず映画のシーンと曲の合わせ方が素晴らしいし、選曲のセンスの良さ、曲自体のクオリティの高さ、そしてアルバムとしての流れ、すべてにおいて文句なし。

オマケにザ・メロディアンズの「Rivers Of Babylon」やザ・メイタルズの「Sweet And Dandy」など、レゲエファンならずとも一度は耳にしたことのあるようなレゲエの名曲ばかりで構成されていますから、誰でも楽しめること請け合いです。唯一、ジミー・クリフの「You Can Get It If You Really Want」と、「The Harder They Come」が2回ずつ出てくるところはご愛敬ということで。

映画の方には、荒んだキングストンの街の埃っぽい夏や、ラスタたちが暮らす田舎の村ののどかで美しい夏の風景が対比的に出てきます。まだ観たことのない人はぜひこの夏、レンタルするなりして観てみてください。

Original Soundtrack Recording

side B-4:「Sitting In Limbo」Jimmy Cliff

この曲を選んだのは、もちろん曲が好きだというのはあるけれど、この「in limbo」って宙ぶらりんな状態のことを言います。子供の頃の夏休みって、ヒマですることがなくてぼ〜っとするしかなくて、何だか「in limbo」状態だったなって印象があるんです。