中目黒で15年目。丹沢の山暮らしで新たな発信を始めた本間良二の店

中目黒の裏路地に、15年続くお店がある。〈The Fhont Shop〉はスタイリスト・本間良二の世界観を凝縮したお店。東京と丹沢の山奥を行き来する暮らしを始めてから、店のあり方も随分と変わってきたという。

photo: Natsumi Kakuto

中目黒のはずれでコツコツ15年

どんなお店でも、15年続けるということは、並大抵のことではない。店を始めた当初は、スタイリストでブランドを始めたり、ディレクションする人はいても、店を構える人は皆無だったはずだ。スタイリスト・本間良二は、常に自分に合ったやり方を模索しながら続けてきた。本人曰く、「TOKYOファッションの波に乗らなかったのが良かったのかなと思います」

The Fhonto Shop内観
こぢんまりとしながらも、ハンドクラフト感溢れる居心地の良い店内。

確かに、ニッチなことをたくさん楽しんでいそうな気もするが、本人曰く、本当はミーハーなので、好きなことはだいたい流行っていると笑う。始まりは〈2-tacs〉というブランドから。今も〈BROWN by 2-tacs〉という形で服作りを第一に、店を運営している。春夏、秋冬で30〜35型くらい。しかも6〜7割はオリジナルファブリックで作り続けている。

「生地ロットや納期に(本当に)いつも悩まされます。でも生地サンプルができたときや自分の想像以上のサンプルが仕上がったときの快感がたまらなくてやっている感じです」

フックにかけてディスプレイされたパンツ
昔から大好きだというスタプレ。これは、テーパードシルエットにリフォームしたパンツで、入荷するたびに売れていく。

好きを形にするために、心掛けること

「自分の作りたいものを好きなように作れることは本当に愉しいのですが、僕のような個人経営だと資金面で大変なリスクにさらされることがあります。なのでサンプルを仕込んでいるときはディーラーさんやお客さんのことは考えずに『作りたいもの』と『資金面』のバランスを重視しています。

お店では来店されたお客さんに商品の生地や特性、製作した意図を丁寧に説明するようにしています。安物ではないので納得をしてから購入をしていただきたいからです。服作りとは真逆でお客さんにそっと寄り添う感じですね。

あとはお店をやっているとたまにアーティストが作品を持ってきてくれることがあります。僕はアートやクラフトが好きなので作品を気に入ったらお店でも販売させてもらったり、共作で何かを製作したりと、アーティストたちとの繋がりができるのは本当に嬉しく思います」

丹沢の山奥にも家を構え、D I Yで楽しむ

3年半前から神奈川県の丹沢の山奥と、東京都で半々くらいの暮らしをしている。「山暮らしの動機は『やってみたかった』からです。踏み切ったキッカケはとくにありません。『何かがしたい』と思ったときは少し先のヴィジョン(風景)が明確に見えているときなので、あまり考えずに直感ですぐに行動を起こします。僕は深く考えすぎてしまうとリスクしか見えなくなってしまう傾向があるので、直感のほうを大事にしています」

店頭に並ぶソラマメ柄のアロハシャツ
縦方向に柄を配置した、ヴィンテージアロハに見られる“チェーンボーダーパターン”。山の畑で採れたソラマメと花をグラフィック化。

いま店頭に並んでいるアロハシャツは、聞くところによると。本人が育てたソラマメの柄なんだそう。山暮らしを始めて、服作りや店づくりにおいていろんな変化がありそうだ。

「もちろん変化はあります。むしろ変化だらけです(笑)。山暮らしだけではなく、最近では犬を飼ったりと、生活を取り巻くあらゆるものに影響を受けています。5年前の自分には想像もできない状況になっていて……環境もそうだけど、時間も大きく関係しているのかもしれませんね。最近は木工作品が溜まってきたので、10月には個展を開催予定です」

避けていたECを始めてみたら、いろいろと見えてきた

〈BROWN by 2-tacs〉のECページは親切だ。本間良二自身がモデルとなって山の家で撮影したルックがあり、商品の物撮りがあり、オリジナルファブリックの素材感がよく分かる寄りカットがある。何よりも一点ずつの解説が詳細にわたり素晴らしい。まるで接客されているかのようだ。

「山でのルックは大流行した疫病のため展示会が開けなくなり、ディーラーさん用に撮影したのがきっかけです。みなさんから反響があったのでいまも継続しています。僕の本業はスタイリストなのでルックの撮影は朝飯前の仕事です。でも、ルックを発表してしまうとそのイメージが強く残ってしまうのではないかと、今までは避けていました。

ECもルックと同様、疫病のためにサイトを開設しました。いままでECの開設は実店舗があるので乗り気ではありませんでしたし、電話対応の通信販売ですら現金書留という状況だったんです。いま思うと『現場至上主義』みたいなところがあって、きっと疫病の騒ぎがなかったら、ECはずっとやっていなかったのかもしれません。

でも、いまはやって良かったと思っています。売り上げの数字的なこともあるのですが、全国の方たちから購入していただいている様子を見ると、僕自身はインターネットで買い物しているのに、僕がデザインしたモノは売らないなんて、ちょっと理不尽だったなぁと、反省しています」

丹沢の山の家まで、車で1時間ちょっと。丹沢山塊の自然はとても豊かで、距離感も最高だという。ただ、ちょっとした心配もあるんだとか。

「街に降りると愉しいですが、行く場所はジュンク堂か世界堂かスーパービバホーム、あとは古着屋、古本屋とだいぶ偏ってきているのがちょっとまずいですね(笑)」