多彩な手打ちパスタを生み出す“小麦粉の魔術師”こと、マーク・ヴェトリさん。イタリアにルーツを持つ、アメリカ・フィラデルフィア出身のスターシェフが、自身6冊目となるレシピ本を、世界に先駆けて日本で発売。
その中からとっておきの2皿が、自身が監修する京都のレストラン〈Mr.Maurice's Italian〉で楽しめることになった。そこで、来日中のシェフに特別メニューのこと、そしてレシピ本『The Pasta Book』について、話を聞いた。

マークさんは、イタリアで豊富な経験を積んだ後、1998年、故郷フィラデルフィアにレストラン〈ヴェトリ・クッチーナ〉をオープン。多彩な手打ちパスタと、斬新な味の組み合わせで、一躍スターシェフとなった料理人だ。
10年ぶりの著書となる『The Pasta Book』には、マークシェフならではのパスタが75品以上。しかも、多くが、旅先などでインスピレーションを受けて考案した新作だという。今回登場する「鴨肉のラグー エスプレッソ風味 蕎麦粉のマルタリアーティ」は、まさにそんなひと皿。

自身が監修する〈エースホテル京都〉内のレストラン〈Mr.Maurice's Italian〉を年に2回訪れているというマークさんは、京都での食べ歩きと銭湯巡りがなによりの楽しみ。このパスタは「お蕎麦屋さんで、鴨南蛮を食べた時にアイデアが浮かんだ」という。
「蕎麦つゆに鴨の旨味がよく出ていたので、これをソースにして、蕎麦粉入りのパスタと合わせられないかと思ったんだ。ただ、蕎麦つゆはパスタに絡めるには、味わいが軽い。だから、鴨のソースにエスプレッソの風味をつけて、コクと深みをプラスした」
実は、本書には、柚子コショウを使ったニョッキもある。「日本の調味料は、味に奥深さを出したいときによく使っているよ」。“何が入っているの?”と思わせる、隠し味のような使い方がマーク流。いま、興味があるのは発酵食品で、特に日本酒と麹を試してみたいという。
尊敬するイタリア料理人だった祖父の名“Maurice”を冠した京都のレストランでは、ほとんどのメニューに卵などのつなぎを加えず、セモリナ粉と水だけで練ったパスタを使っている。
シーフードが大好きというシェフのもうひと皿「蟹のカネロニ イクラ添え」は、そこにサフランの風味をつけたものだ。「シーフードを使うときには、ソースはできるだけシンプルに。パスタ生地にそれを引き立てる繊細な香りのものを練り込むことが多いかな」。
「ひたすら粉を練って、ひとつひとつ同じように形作っていく。ヨガのメディテーションと同じ。忙しい日々の中で無心になれるんだ」。マークさんは、手打ちパスタの魅力を、そう話す。ただ、初心者にはいささかハードルが高いのも事実だが……。
「『ホウレンソウのニョッキ』のレシピがあるんだけど、このあたりからトライしてみたらどうかな。ニョッキはとても作りやすいと思う。もちろん、リガトーニやラザニアなど、乾燥パスタが売っているものは、それで代用してOKだよ」
彼に手打ちパスタの素晴らしさを伝え、2023年にこの世を去った父に捧げたレシピ本には、思い入れのあるパスタがぎっしり並んでいる。この機会に、小麦粉の魔術師が紡ぐ皿を味わって、そして挑戦してみてはどうだろうか。







