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花井祐介やバリー・マッギーが柿落とし。日本のカルチャーを紹介する〈T&Y GALLERY〉がLAにオープン

ロサンゼルス・ダウンタウン、アートディストリクト。新しくオープンする〈T&Y GALLERY〉はまるでストリートカルチャーのアートフェスのよう。花井祐介にカリフォルニアのアートアイコン、バリー・マッギーにサーフレジェンド、ハービー・フレッチャーとメガトン級のラインナップ。花井祐介さんと〈T&Y GALLERY〉を手がけた栗田裕一さんが、この夢のようなトリプルワークについて話し始めた。

photo: Aya Muto / text: Akihiro Furuya

日本のカルチャーの発信を標榜するギャラリーがLAダウンタウンに

BRUTUS

LAのアートディストリクトにギャラリーをオープンさせたきっかけから教えてください。

栗田裕一

自分のカルチャーや嗜好とリンクするLAで、いつかアートギャラリーをやりたいと思っていたんです。そもそも僕は洋服からアートへ傾倒していったので、アートの捉え方がファッションっぽいんです。価格はまるで違うけどフォトTの延長みたいに。日本のアーティストやカルチャーをもっとカジュアルに、LAの人たちに見てもらいたいというのが、そもそものきっかけですね。

花井祐介

そうだったんだ!そこまでとは思ってなかった(笑)。栗田くんから、いいギャラリーをLAでつくるんで、やらない?って誘われて、「じゃあ、やりましょうか」って、そんな感じ。

栗田

ギャラリーはいいスペースと立地というのは大事です。ボクはギャラリストとしての経験も少ないので、スペースで価値が決まると思ってました。小さなギャラリーだと、アーティストもやりたいとは思わないだろうし。そういう意味ではアートディストリクトのこの物件に巡り会えたのはラッキーでしたね。

花井

大きいとは聞いていたんですが、去年の6月に仕事のついでに下見に来たら、ものすごくデカくて、埋まるかなって感じでした。これだけの空間は日本にはないスケールですから。最初はボク一人でやってくれって言われたんですが、こんな広いところ埋められないから、ハービー(・フレッチャー)さん(西海岸のサーフレジェンドにして、アートマスター)を誘って2人展にしようかって話になったんです。

花井祐介+ハービー・フレッチャー+バリー・マッギー、ストリートアイコンによるトリプルワークス

栗田

僕は花井くんがファーストコールだったんで、もちろんソロでいいと思っていたんです。なのであとは丸投げ(笑)。でも、気がついたらハービーさんに、バリー・マッギーさんまで加わって、とんでもないメンバーが集まって、夢みたいな話ですよね。2人ともカリフォルニアを代表するアーティストで、これ以上ない流れになっていったんです。

花井

ハービーさんに声をかけらたら、「おお、いいね!じゃあ、バリーも呼ぼうか」ってあっさり言うんです。「俺が頼めば大丈夫だ」って。西海岸のタテ社会にびっくりです(笑)。僕はそもそもバリーの大ファンで、憧れのアーティスト。サンフランシスコに住んでいた2003年〜2004年は、街中にバリーのグラフィティがあって、見かけるたびに写真を撮っていたくらいですから。

メインアーティストの花井祐介と〈T&Y GALLERY〉主宰の栗田裕一。トリプルワークスの作品を囲んで。〈SHAPESHIFTER〉とは妖怪。

BRUTUS

3人の競作というと、どの作品になるんですか?

栗田

エントランスの展示タイトル横に飾った絵画作品とサーフボードです。サーフボードはハービーさんがシェイプしたもの。花井くんはボードに直接絵を描き、バリーはディケール(和紙に手描きしたものをグラスファイバーでコーティング)を手掛けました。

花井

3人でやるんだから、サーフボードに絵でも描こうかっていう、いたって西海岸的な感じでした。エントランスの絵はイベントのポスターみたいに競作できないかってことだったので、ボクが左側をポスター通りに描いて渡したら、あとは2人が好き勝手にやりはじめて、全くコントロール不能でしたね。あっ、会場に作ったビーチハウスも新作で競作でした。ボクが作った小屋にハービーさんがビーチハウスから持ってきた流木やヤシの葉などの材料をあしらって、小屋の中のコラージュは友達の作品を飾ったものです。仕上げにバリーさんが持ってきた古いサーフボードを置いて完成。

自由に見てもらうことで空想が膨らむ花井祐介作品

ギャラリーのオープニング用の新作は全部で11点。自身のライフワークともいえるシリーズ「オーディナリー・ピープル」で。

栗田

花井くんには、特定のお題を投げたりしませんでした。自由に好き勝手に描いてもらいたかったんですよね。結果、上がってきた作品はギャラリーの大きさに合わせて、F100号(1,303×1,620mm)、S120号(1,940x1,940mm)とかなりの大きいものになりましたね。

花井

ボクの作品はいつものオーディナリー・ピープルというか、これといってギャラリーのオープニングを意識したテーマとかはないですが、11点すべて新作です。 

栗田

オープニングだからって肩肘張らない。そんな花井くんの姿勢が居心地がいいんです。そもそもギャラリーに来てくれるお客さんには普段の花井くんを見せたいですし。

花井

自由に見てもらうことが、ボクにとってはいちばん嬉しいことなんです。なので、ボクは自分の作品をあまり説明したくないんです。作品にタイトルもつけませんし。絵を見る楽しみがなくなるような気がするんですよね。知らない方が想像も膨らみますし。実際、ボクもそうやって空想しながら絵を楽しむ方ですから。

BRUTUS

おふたりの今後の予定とかあれば聞かせてください。

栗田

このオープニング展のあとは、ノグチ・イサムのヴィンテージの〈AKARI〉を使ったインスタレーションを予定しています。

花井

展示の予定はちょこちょこ入っていますが、もうちょっとサーフィンができればと(笑)。バリーさんは、今マリブにサーフィンに行ってて、まだ戻ってこないんだけど。そんな感じでやれればと。

栗田

パーティまでに戻ってくるかな?

花井

心配だね(笑)。

オープニングパーティはLAのストリートカルチャーの奥深さを見せつけるように大盛況のうちに終了した。その中にはポートレート・ドローイングのリッチ・ジェイコブス、ミュージシャンでありアーティストでもあるティム・カー、そして日本から駆けつけた藤原ヒロシの姿もあった。マリブでのサーフィンを終えたバリー・マッギーはパーティにはぎりぎり間に合ったものの、サインを求めるファンたち、ひとりひとりに丁寧に対応するあまり、ギャラリー内に入れぬままパーティは終了。いかにも西海岸らしい結末の夜となった。