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加藤拓也が小川洋子の『博士の愛した数式』を舞台化。存在の肯定から、生み出されるもの

演劇界、ドラマ界で目の離せない存在の加藤拓也さんが、小川洋子さんのミリオンセラー小説を舞台化。加藤拓也さんが作り出す、2時間、物語に没入できる演劇体験とは。

photo: Kazuharu Igarashi / text: Tomoko Kurose

2時間、物語に没入できる演劇体験を

昨年の舞台『ザ・ウェルキン』『もはやしずか』で、第30回読売演劇大賞演出家賞部門で優秀賞を受賞。加藤拓也さんの手がける舞台や映像作品は、オリジナルでも原作のあるものでも、驚くほど人間を深く考察し、ネガティブな側面も容赦なく描く。数秒で楽しめる動画コンテンツの溢れる今、劇場で2時間没入できるものを作らなければと語る。「簡潔にテーマを説明できてしまうような物語なら、ブログやエッセイを読んだ方がいい。映画も演劇も、そうではない“観劇体験”を大事にしたいですね」

加藤拓也

演劇界、ドラマ界で目の離せない存在の加藤拓也さん。このたび小川洋子の小説『博士の愛した数式』を舞台化する。80分しか記憶が持続しない元数学者の「博士」と、家政婦の「私」と息子「ルート」の交流を描いたベストセラー作品だ。

「4年前に串田和美さんと舞台でご一緒して、博士が見つかったと思ったんです。串田さんは非常に感性の豊かな方なので、博士を体現できると思いました」

加藤さんの作り出す作品の多くは、人間の奥底にある多面性を容赦なく暴き描いている印象。観劇後は立ち上がれなくなるほど圧倒される。それらと、小川さんの美しく優しい小説世界とは異質な気がしてしまう。

「美術スタッフが今回の稽古を見て“こんな優しい世界も持ってたんや”と言ってました。小川さんの小説は、現実の地続きにありそうな、リアリズムを使ったおとぎ話。優しさと同じくらい残酷なところの存在を肯定している点が好きです」

今回もキャスティングの妙が効いている。演劇的バックボーンや演技の質の異なる俳優を、同じ世界観に導く技に長けた加藤さんだが、秘訣は何なのか。

「徹底的に物語について話すしかないですよね。あとは、お芝居について僕の理想を押しつけないということでしょうか。理想に沿わせるなら、僕が全役演じるのと同じことになってしまう。俳優のパーソナルな部分を肯定するのは大事だと思います」

稽古では、UNCHAINの谷川正憲さんが読み合わせの段階から即興で演奏し、世界観の共有を試みているらしい。
「音楽劇のようになると思います。今回、小説の空気やにおいみたいなものを大事にしたいと考えていて、谷川さんの生演奏はすごく助けになってくれます」

『博士〜』に惹かれる理由についても、加藤さんは「肯定」という言葉を使い、こう語った。

「社会では、何かすることによって、存在価値や意義が見出されますが、星や石は意味も意図もなく、ただ存在している。この物語は、人に対しても、ただ存在することを肯定してくれる。そこがとても素敵ですね」

加藤拓也