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武豊が語る、海外競馬とシーバスリーガル25年

強い酒の記憶を辿ると浮かんでくる旅の景色、傍らに座った人の顔、あの一言……。今もなお忘れることのできない強い酒をめぐるストーリーを武豊さんが書き下ろしました。今夜の一杯のお供にどうぞ。

初出:BRUTUS No.785『強い酒、考える酒』(2014年9月1日号)

illustration: Kenji Asazuma

忘れられない一杯

騎手には酒好きが多いが、かくいう自分もかなり好きな方だ。

ご飯の時はビールかワインを飲むという感じだけれど、バーへ行って飲む時などはハードリカーに手を出すことが多い。焼酎だけは全く飲まないというか、合わないのだけれど、ブランデーやテキーラなどはごく普通に飲む。

以前、タニノギムレットという名前の強い馬がいた。この馬とのコンビでは日本ダービーというビッグレースを勝ったのだけれど、その日の夜はギムレットで祝杯をあげたものだ。

また、そのタニノギムレットの子供にウオッカという馬がいた。この馬は女の子だったのだけれど、男の馬を相手にいくつも大レースを勝った。僕もウオッカに乗って天皇賞(秋)や安田記念といったGⅠレースを勝たせてもらった。この馬に乗っている時期はやはりウオッカで乾杯したものだ。

そんなハードリカーの中でも圧倒的に多く飲むのはウイスキー。よく飲む山崎では、18年が好き。バランスがよいというのか……。長時間、飲んでいられるお酒だと思う。

ほかにもいろいろな種類のシングルモルトウイスキーを飲む。強い香りを楽しみながら飲むことに至福の時を感じる。

飲み方としてはまずはロックで乾杯。それからソーダ割りで飲み続ける。もしかしたら昔よりお酒は弱くなってきたかもしれないけど、ソーダ割りならそれなりの量は飲み続けていられる。そして最後の〆にもう一度パンチの効いたロックで飲む。そういうのが僕の飲み方だ。

騎手という職業はムチ一本あれば世界中で乗ることができる。幸い僕もフランスやアメリカ、イギリス、香港にドバイなどたくさんの国で乗せてもらってきた。ハードリカーはどの国にでもあるし、だからアメリカへ行った際はバーボンなど、その国のお酒を飲みたくなる。

ちなみにドバイはイスラム圏なのでお酒は禁止と思われているが、それはあくまでも地元の人たちの間での話。ホテルやパーティーの席で、観光客や僕ら海外から来た人に対しては普通にお酒が振る舞われる。もっともいくら海外から来たといっても街中でお酒を飲んでいたら逮捕されてしまうそうだけど。

話を戻そう。フランスのノルマンディー地方にドーヴィルという街がある。映画“男と女”の舞台として知られる小さくて可愛い港町。僕は毎年そこにある競馬場で乗っている。その地方の名産にリンゴを原料とする蒸留酒のカルヴァドスがある。香りもアルコールも強いお酒だけれど、これがフランスの料理とすごくマッチする。以前、酒蔵を見学させてもらったことがあり、車から降りた瞬間にプーンと良い匂いが漂ってきたことは昨日のことのように思い出される。

また、アメリカやフランスには半年以上滞在して向こうの競馬に乗っていた時期がある。そのような時、日本から知人が訪ねてきてくれることがよくあった。そういった人たちの多くは日本を発つ前に連絡をくれ、「何か持っていくものがあったら言ってください」などと言ってくれる。

相手としては例えば日本の新聞や雑誌、お米や醤油など海外で入手し辛いものを考えて言ってくれていると思うのだけれど、僕がリクエストするのはシーバスリーガル25年。そう頼むと大体、笑われるが、空港の免税店で売っているし、抜群に美味しいのでどうしても頼んでしまう。シーバスリーガルも12年、18年とあるけど、25年は限定生産。ボトルにシリアルナンバーが刻印されているだけあって本当にコクがあって美味しいので大好きだ。

武豊 シーバスリーガル25年 イラスト

そういえば限定生産で思い出したのだけれど、先日、知人からいただいたバランタインも限定生産品だった。重厚な木箱に収められていて、封を開けるのがもったいない感じがするのでまだ飲んでいないが、近いうちにいただくつもりでいる。そうやってお酒の話をしていると、それだけで飲みたくなってしまう。

外で飲む時は目の前に色んなボトルが並んでいるようなバーが好きだ。マスターに「あのお酒はどんなの?」などと聞きながら注いでもらい、飲み比べる。そんな飲み方をしている。