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メキシコの民芸を広めた画家、利根山光人の回顧展が開催中。目利きの郷古隆洋が魅力を語る

情熱的な作風で太陽の画家と呼ばれた利根山光人(こうじん)(1921~94年)は、メキシコの民芸を世に広めた先駆者でもある。〈世田谷美術館〉では30年ぶりとなる大規模回顧展で、民芸の目利き・郷古隆洋さんが魅力を語る。

知る人ぞ知るレジェンドが遺したフォークアートの蒐集品も

語る人・郷古隆洋

陶器のオブジェ“生命の樹”や先住民族の仮面など、メキシコのフォークアートが世界中で高い評価を得ています。立役者として有名なのはミッドセンチュリーのデザイナー、アレキサンダー・ジラードですが、僕は、それ以上の功績を残したのが利根山光人さんだと思っているんです。

1959年にメキシコを訪れた利根山さんは、民族の手仕事や古代遺跡の底知れぬエネルギーに惹かれ、名著『メキシコの民芸』を通して、その魅力を広めます。後に岡本太郎らの芸術家たちがメキシコへ目を向け始めますが、道は利根山さんが拓(ひら)いていたんですよね。

今回の大規模回顧展でも、蒐集品(しゅうしゅうひん)の展示が圧巻。カラフルな土人形や陶器からは、人間の根底にある祈りや情感が溢れ出ているし、マヤ・アステカ遺跡の拓本の、実物大のインパクトにも驚かされます。

作品では、赤やオレンジの色彩がほとばしる油絵や、初めてメキシコを旅した際の水彩スケッチが出色。彼が見た町の人々や日常の景色が、当時の感動のままに飛び込んでくるようです。

国内外の祭りを題材にした作品群の躍動感にもぐっときます。人間の原初的な衝動が生み出すものには、国も時代も超えた引力があるんだな、と。

知る人ぞ知る画家とも言える利根山さんですが、いや、本展を見れば、もっともっと評価されるべき人だとわかるはずです。