大陸から台湾に移住してきて、集落を開いた客家人。台湾では主に“浅山”と言われる山麓部に居住していたため、食料の収穫は地理的な影響を受け、安定しなかった。そのため、獲れるときに獲ったものを無駄なく生かすという発想に自然になったという。それは先人の知恵として現代にまで受け継がれ、漬物や乾物などの保存食を使った料理が多いのが特徴だ。
まぁ、知識を詰め込むより食べた方が早い。歴史と土地の特徴から生まれ、進化してきた客家料理を味わうべく、地元民オススメの食堂を訪れた。
多くの客家人が暮らす新竹県竹東には台湾最大の客家市場〈竹東伝統客家市集〉があり、客家の食を体験するなら外せない。この市場内にあり、地元客がひっきりなしに訪れる名店が〈新福飲食店〉。1949年創業で、メニューもレシピもあまり変わっていない、伝統的な客家料理を出す。
客家料理の味を一言で表すならば、「ご飯が(お酒が)進む」が最適だ。しっかりした味付けは、山や農地でたっぷり労働する客家人たちのエネルギーを満たすためのものだったと言われる。
昔は、外の人間にとっては塩辛い&脂っこいものも多かったが、近年は食生活の変化により、味付けもヘルシーで食べやすいものに変わってきているとか。
〈新福飲食店〉で食べた絶品の客家料理をいくつか紹介してみよう。
客家小炒(クァージャシャオチャオ)
客家の名前を冠する代表的な炒め料理。戻した干しイカ、豚バラ、干し豆腐、ネギ、セロリなどを一緒に炒める。
白斬土雞(バイヂャントゥジー)
茹でた鳥もも肉。添えられているのは、金柑やシークヮーサーで作る「桔醬(ジュージャン)」という、客家料理には欠かせないソース。さっぱりとして肉料理と好相性。
梅干獅子頭(メイガンシーズートウ)
獅子頭とは肉団子のこと。芥菜(からしな)を漬けて干した梅干菜と一緒に煮込むことで食感ふっくら。梅干菜の塩味と爽やかな酸味が肉の味わいを引き出している。写真のものは2023年8月27日まで開催中の『ロマンチック台三線芸術祭』で「飲食実験プロジェクト」に参加し、盛り付けなどをアップデートしたスペシャリテ。
炒過貓(チャオグォマオ)
クワレシダという山菜の野趣あふれる炒め物。山菜料理も多い。
金桔燻粉腸(ジンジュシュンフェンチャン)
店の一番人気。サツマイモの粉を混ぜた腸詰めを金柑の葉で燻したもの。つまみに最高。
老菜脯雞湯(ラオツァイフージータン)
老菜脯とは、大根の塩漬けを天日で乾燥させたもの。店では古漬けのものに浅漬けのものも加え、バランスのいい風味を生み出している。この老菜脯と一緒に鶏肉を煮込み、ナツメやクコノミを加えたスープは滋味深い味わい。
食べるほどにさらに食欲を呼ぶような、客家料理の味わいを堪能し尽くしたが、さすがに満腹。隣のテーブルでは、地元の客家人のおじさんたちが、昼間っからワインを空けて楽しそうに食事をしていた。客家人の暮らしの中でも、食は極めて大切な部分を占めていると感じた。