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アート、デザイン、食から台湾の客家文化を知る。5つの県・市をまたいで『ロマンチック台三線芸術祭』が開催中

客家文化の発信を目的とした台湾最大規模のアートイベント『ロマンチック台三線芸術祭』。150㎞にわたる台三線エリア(台北市、桃園市、新竹県、苗栗県、台中市)で8月27日まで開催中だ。

photo: Mina Soma / text: BRUTUS

台湾好きを自称するあなた、客家(ハッカ)を知っていますか?

客家とは漢民族の一支族。主に18世紀以降、東南アジアをはじめ、世界各地に移住する中、台湾へも明朝末頃から流入し、移住を正式に認めた清朝の時代にピークを迎え、広東省や福建省などから多くの客家が渡ってきた。彼らは、先に移住してきていた閩南(びんなん)人が暮らす平野部を避け、原住民族との衝突などもあった結果、彼らと住み分けるような形で山麓部で暮らし始めた。客家人は、現在も台湾の人口の20%近くを占めると言われ、独自の文化や慣習をほそぼそと継承している。

この客家文化の発信を目的とした『ロマンチック台三線芸術祭』が開催中だ。台三線とは、台北から台湾西部の山間部を通り、南端の屏東県にまで至る道路。このうち、台北から、桃園、新竹、苗栗を経て台中に至る約150㎞のエリアは特に客家人が多く居住していて、ここで芸術祭は開催されている。

失われゆく客家文化を守る

主催は行政管轄の客家委員会。主任委員の楊長鎭さんに、2019年に続き今回が2回目となるこの芸術祭創設の理由について聞いた。

「大戦後のさまざまな政策や教育の影響で、客家の言葉や文化が危機的な状況になりました。今客家語を話すのは、客家人の中で1.5%しかいません。移民としての気質によるのか、客家人自身も自分たちの文化を大切にしていなかったように思います。でも、客家の文化が完全に失われるようなことがあってはいけない。政治的な理由や、期待される経済効果というものもありますが、一番は客家人が自分たちは何者なのかというアイデンティティを見つけられるようにすること。その文化的な象徴を築くことが、芸術祭の目的だと考えています」

国内外から55組以上のアーティストが参加。客家の多彩な文化や生活習慣をテーマに、それぞれの解釈で作品を制作している。

「アーティストには実際に台三線エリアで暮らしてもらい、時間をかけて地元の人と交流し、土地と対話をしてもらいます。それによって生まれた作品を通して、外部から来た人と客家人のストーリーがまた生まれる。このプロセスはとても重要なことだと考えているので、前回よりも準備期間を長くとって、土地を深く理解してもらうようにしました」

前回との違いとしては、“アート”の幅を拡張している点も挙げられる。生活の中にある客家の文化や信仰、慣習にデザインを導入することによって、今の生活様式に合う形で提示する試みも行う。地理的条件に恵まれなかったために、“漬物”などの保存食を中心に生まれた独特な食文化に関しても、「飲食実験計画」と題して、展示やオリジナル商品の製作などとさまざまに企画を展開。すべては客家の“再発見”のためだ。

「台三線の山間部では、5月に桐花という白くきれいな花が咲きます。でも私たちは素通りして、今までちゃんと見ていなかったんです。それが美しいものであるということ、価値のある存在だということに気づいていなかった。意識していなかった客家文化の価値を未来へつなげる可能性を探りたいと思います」

芸術祭を訪れれば、今まで知らなかった、また奥深い台湾の姿に出会えるはずだ。