ミルクブルーの海、急勾配しかない登山、そして広がる絶景。台湾・亀山島へ
photo: Kazuharu Igarashi / text: Ikuko Hyodo / coordination: Mari Katakura
本記事も掲載されている、BRUTUS「久しぶりの海外は、まず台湾から始めよう。」は、2023年4月14日発売です!
「宜蘭の人にとっての精神的なよりどころ」という亀山島へ向かう。頭城から東に約10㎞の沖に浮かぶ亀山島は、約2.9㎢の小さな島。海に浮かぶ亀のように見えることからこう呼ばれ、人が住み始めたのは1820年頃。多いときは700人以上が暮らし、豊かな漁場から恵みを受けていたが、交通、医療、教育面などで課題が生じて徐々に過疎化が進み、1977年までに全島民が台湾本島に移住。そして住民と入れ替わる形で軍事管制区となり、2000年に一般開放された。長らく立ち入りが制限されていたため、島には豊かな生態系が残され、それらを保護するために現在も1日の上陸人数に制限を設けている。
烏石港から40人ほどのツアー客を乗せて、船が出発した。島が近づいてくる光景は迫力がある。上陸前に沿岸を周遊するのが、一つ目の山場だ。このあたりは海底火山が非常に多く、特に亀首の周辺は海底温泉になっている。湧き上がってくる温泉と海水が混ざり合うさまは、まるで海にミルクを注いでいるかのように神秘的な光景なのだ。ミルクの海に船が分け入っていくと硫黄のにおいが立ち込め、船の上にいながら温泉に浸かっている錯覚を起こしてしまう。
海を上空から見るべく、上陸して甲羅部分の最高地点を目指す。登山路は階段が整備されていて、その数1706段。階段であればそこまできつくないと思っていたが、読みが甘かった。観光客がトレッキングするために整備された登山路ではなく、軍が頂上で見張りをするために造った道だったのだ。石段の段差は高く、途中で平坦になるところもほとんどなく、急勾配が規則正しく続いていく。
ガイドの説明によると「階段がなかった頃は3時間かけて頂上まで行き、2時間見張りをして、また3時間かけて下っていたそうです。あるとき軍の偉い人が来て、そんなに時間がかかるわけがないと登ってみたら本当だった。それで97人で90日間かけてこの階段を完成させたのです」。階段には100段ごとに表示があり、それを励みに登るものの、後半は自分との闘い。しかしなぜ、こんなところで自分と闘っているのか、ふと我に返っておかしくなり、木々の隙間から時折見える海が清々しくもあり……、つまりはナチュラルハイになっていた。
約1時間かけて登り切り、周りを遮るものがなくなった。共に登った人たちとも、心なしか一体感が生まれている。これまでいろんなところで青く、美しい海を見てきたが、亀山島の海の青さは今まで見たどの海の色とも違っていた。そしていつまでも眺めていたくなる、形のとどまらない青だった。烏石港に戻り、陸地から遠くに浮かぶ亀山島を眺めたとき、親近感とともに、宜蘭の人のように誇らしい気持ちが芽生えていた。
-
軍事管制区になってから掘られた、全長約800mの軍事坑道。内部はひんやりとした空気に包まれている。
-
軍事坑道の行き止まりにある機銃陣地。坑道内部にはほかにも砲台陣地が複数ある。
-
島民が暮らしていた時代、航海や漁業の守護神・媽祖を祀った寺。軍駐屯後は、観世音菩薩が祀られた。
-
石段の途中にある、清朝時代の石碑。この時代、島に人が住んでいたことを伝える、貴重な資料でもある。
-
島の西側には亀の尾が。季節風や海流の影響を受け堆積した砂石が移動し、生きているように左右に動く。
-
ついに最後の階段!島の最高海抜は398mだが、3mの監視台が造られたため401高地と呼ばれる。