社会に役立つことをしたい、そんな思いを抱く人は少なくない。けれどもそのためにはどうすればいいのか、やり方がわからない、きっかけが掴めないという人も多い。日本と海外の大学を卒業し、大学で学んだことを活かしたいと外資、国内と大手の民間企業で働いていた小暮真久さんもその一人だった。
「会社員時代はやりがいにも恵まれましたが、次第に自分の仕事がもっとダイレクトに社会に貢献できないかという思いが強くなりました。そんなとき、前職の先輩から構想中の社会貢献事業のプランを聞いて、これを実現したい!と興味を持ったのが始まりでした」
そのアイデアとは、開発途上国と先進国、双方の人々の健康を同時に改善するという画期的なもの。小暮さんは、“TABLE FOR TWO(以下TFT)”と名付けられたプロジェクトを具現化するために、2007年、NPO法人TABLE FOR TWO Internationalを立ち上げた。
「TFTのいちばんのミッションは、世界で起きている食の不均衡を解消すること。現在、世界の人口約80億人のうち、約8億人が飢餓や栄養失調の問題で苦しんでいます。一方で、20億人近くが肥満など食に起因する生活習慣病を抱えています。そこで、先進国で肥満や生活習慣病予防のためのカロリーを抑えた定食や食品の値段を20円高く設定し、それを購入することで、1食につき20円の寄付金が開発途上国の子どもの学校給食になるという仕組みを作りました。ちなみに20円というのは、TFTが支援する地域の給食1食分に相当します」
まず、社員の健康リスクを減らしたい企業の社員食堂を中心にスタート。当初は、認知してもらうまでに苦労もあったが、いざプログラムの詳細を伝えると、その仕組みがシンプルでわかりやすいと評判に。現在では、社員食堂だけでなく、学食や、無印良品が運営する〈Café&Meal MUJI〉、自動販売機を使った“CUP FOR TWO”やレストラン、スーパー、コンビニエンスストアにも広がり、累計支援給食数は1億食(※1)を超え、参加企業団体は715社・団体(※2)にまで拡大した。
「近年はSDGsの流れもあって、企業としては、積極的に社会貢献していることが価値になり、マーケットでの評価に直結するということで参加してくれる団体が増えています。消費者もまた、スーパーやコンビニで、“TABLE FOR TWO”のロゴ入りやメッセージ入りを選ぶという傾向にあります。同じものを買うんだったら社会貢献につながるものを選ぶ、というのは数年前から欧米のトレンドでもあるので、価値のあることとして、特に若い世代には当たり前の感覚になっていると感じます」
TFTという社会事業がビジネスとして幅広く認知された現在、小暮さんはより長く継続させていくために、“持続可能性”という面も大切にしている。
「社会的に良いことでも続かないという人も割と多いのが実情です。真面目なアクションだけど、その中にどこか楽しさや新しさを設けることで続けていただけるように、我々もモチベーションを保てるような仕掛けを考え続けなければなりません。それから、支援していた国の子どもたちが、例えば高校生、大学生になったことなど、彼らの成長の過程や支援先のストーリーをきちんと伝えていくことも継続してもらうための大切な仕事だと思っています」
16年前、小暮さんが日本に蒔いた小さな種は、現在アメリカやヨーロッパをはじめ世界各国に広がり、「TFTの食卓の輪」として成長した。今後は、気候変動問題とも絡めて新たな社会課題解決を目指していきたいと語る。
「特に支援先のアフリカは気候変動の影響を受けやすく、インフラが整っていないこともあり、干ばつや水害が起きるとすぐに食料問題に直結してしまいます。日本の今年の夏の暑さも尋常ではなかったですよね。未来の子供たちのために、我々世代が積極的に関わらなければいけないことはたくさんあります。今後はTFTの仕組みを活かしながら、環境問題に関する新たなプロジェクトを進めたいと考えています」
TABLE FOR TWO とは
“TABLE FOR TWO”とは、「ふたりのための食卓」という意味を持つ。一つのテーブルで、先進国の大人と開発途上国の子どもが食事を分かち合うというのがコンセプトになっている。
日本、アメリカ、欧州などプログラムを取り入れている先進国で対象となる、健康に配慮されたメニューや食品を購入すると、一食につき20円の寄付金がTABLE FOR TWOを通じて開発途上国の子どもの学校給食になる。肥満や生活習慣病を解消しながら、飢餓の危機にある子どもたちに一食が贈られるという仕組み。
現在の支援国は、アフリカのウガンダ、ルワンダ、タンザニア、ケニアと、東南アジアのフィリピンの5か国。可能な限り地元で収穫、生産された食材を活用して栄養価の高い給食を提供する学校給食プログラムのほか、学校菜園や地域菜園を設置し、農業生産性向上を目指した指導を実施、子どもたちや農家の知識向上に努めている。
また、近年はSNSを活用して給食支援と米食促進に貢献する「おにぎりアクション」や、規格外野菜に顔をつけてキャラクターを作り、フードロス削減に貢献する「キャラベジ」などプロジェクトの幅も広げている。