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グラフィックデザイナー・佐藤卓と行く、山梨・長野の縄文を深掘りする旅

ぐるぐる渦巻く土器もかわいい土偶も、約5,000年前に生まれたもの。作ったのは八ケ岳山麓に暮らした縄文人だ。そのファンキーな造形の謎を知りたくて、グラフィックデザイナー佐藤卓さんと縄文博物館をハシゴ旅。
前編「縄文はファンキーだ!5,000年前のデザインに迫る」も読む。

photo: Keisuke Fukamizu / edit&text: Masae Wako

山梨県立考古博物館

飾りすぎでもいいじゃない!
大型土器の迫力と造形美をこの目で。

「山を思わせる4つの突起とその上で波打つ渦巻き文様が見事!水流の意匠は古今東西で見られますが、ここまで圧倒的な3次曲面に昇華させた造形は珍しいのではないでしょうか。近代デザインの、機能美こそ至高という概念とは違う、本能的で遊びのある造形です」

グラフィックデザイナーの佐藤卓さんが、〈山梨県立考古博物館〉の水煙文(すいえいもん)土器を眺めながらそう語る。今回、佐藤さんが訪ねたのは、八ケ岳の麓に広がる中部高地。2018年、日本遺産に認定された「星降る中部高地の縄文世界」の舞台である。

「よく見ると、いろんな曲線や文様をなんらかの規則でもって生き生きと組み合わせた部分もあれば、行きあたりばったりで適当に付けちゃったような柄もある。そのコントラストに惹き込まれます」

実はそのハイブリッドっぷりも中部高地の縄文の特徴だと、学芸員の野代幸和さんは言う。

「異なる地域の文化も大らかに受け入れる土地柄なんです。当時この地域には、矢じりになる黒曜石を求めて日本の人口の4分の1が集まっていた。各地の造形が融合され、複雑でエネルギッシュなデザインが生まれたのでしょう」

北杜市考古資料館

縄文人が作ったピュアな祈りの形。
愛くるしいチビ土偶に会いたい。

次の〈北杜市考古資料館〉では、エッヘン!とパンツを穿いたような土偶や二頭身キャラなど、愛らしい土偶がたくさん。かわいい~と頬が緩むものも多いけれど、それらはおそらく祈りや祭祀の道具だったもの。ほとんどは役目を終えた後に壊され大地にバラまかれたと考えられており、だから顔や腕が欠けた状態で出土する。

釈迦堂遺跡博物館

アーモンドアイと上向きの鼻。
土偶の「顔」にはヒミツがあった。

笛吹市の〈釈迦堂遺跡博物館〉には、その「顔」だけが並ぶ展示棚もあり、これがなかなか圧巻だ。

井戸尻考古館

土器の概念を超える奇怪な造形も。
縄文沼の深みへ誘うマニアックな館。

茅野市尖石縄文考古館

“縄文銀座”の出土品が2,000点以上。
かわいくて感動! の国宝土偶も常設です

さて、国宝土偶がいる長野では、そのキラキラした土肌の質感まで見られる〈茅野市尖石(とがりいし)縄文考古館〉や、マニアックな展示にリピーターも多い〈井戸尻考古館〉へ。縄文土器には蛇などの動物文様がよく登場するが、井戸尻でそれを見た佐藤さんからギモンが一つ。
「どの生き物も抽象化されていますね。縄文人ほどの造形力があれば、対象をリアルに表現することなど訳ないだろうに、そうしていないのはなぜなのでしょう」

学芸員の副島蔵人さんによれば、直接的な姿を描かず、時に人を思わせる表現をすることで、神格化や精霊化した可能性が高いそう。
「あらゆるものに神様の存在を見る真っすぐな精神と、思いを自由に表現するファンキーなデザイン力。両方のDNAを、縄文人は色濃く持っていたんですね」

土の迫力もずば抜けた造形力も、実物と対峙してこそ味わえるもの。だからまた訪れたい。訪れるたび、新たな「なんだこれは⁉」に出会えるのが、縄文博物館の旅なのだ。