シム・ウンギョン(俳優)
『東京暮色』の暗い物語から伝わる人生に対する美しいメッセージ
まず1つ目は相米慎二監督の『お引越し』。もう素晴らしい。それしか言えません。何より子供も悩みとかを抱いて生きている人間だってことを示しているのが美しい。私も子役時代にこういう映画に出られていたらよかったなと、羨ましくなりました(笑)。
2つ目は、勅使河原宏監督の『他人の顔』。シュールでグロテスクなんだけど、美しい。そして今の私たちが悩んでいることへのメッセージもある。カルチャーショックを受けました。
最後は小津安二郎監督の『東京暮色』。ほかの小津作品に比べて、すごく暗くて冷たい映画なんですよ。だけど、人生は儚(はかな)いけど美しいところもあるから、生きていきましょうっていう、『旅と日々』に通じるメッセージを感じます。チャップリンも言うように、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」なんですよ。
『東京暮色』 監督/小津安二郎
父に男手一つで育てられた明子は、年下の学生の子を身ごもると同時に母が家族を捨てて別の男に走ったという秘密を知り、失意のどん底に突き落とされる。小津が最後に撮ったモノクロ作品。(140分/'57)
『他人の顔』 監督/勅使河原 宏
安部公房の同名小説が原作。事故で顔に大やけどを負い、周囲から孤立した男は、仮面をかぶることで他人に成り代わる。現代人のアイデンティティ問題にシュールな世界観で迫った不条理劇。(121分/'66)
『お引越し』 監督/相米慎二
両親が別居することになり、母と2人暮らしを始めた小学6年生のレンコ。最初こそ家が2つできたことを無邪気に喜んでいた彼女は、次第に事の重大さに気づき、離婚を阻止すべく動き回る。(124分/'93)

三宅 唱(映画監督)
つげ義春原作の『リアリズムの宿』には美と笑いが同居している
『リアリズムの宿』は、『旅と日々』と同じくつげ義春さんが原作。浜辺のロングショットが美しく、でも主人公2人がとことんおかしい。大学時代から大好きで、DVD副音声についてレポートを書いたことも(笑)。
『無能の人』もつげさん原作。これは、“おかしみと悲しみ”が、目に見えない美しさを感じさせてくれます。つまり、美しさっていうのは必ずしも目に見えるわけじゃない。
最後は清水宏の『風の中の子供』を。風景の中の人物を生き生きと撮らせたら、清水の右に出る人はいません。それくらいうまい。うまいというのも一つの美しさなんじゃないですかね。
『リアリズムの宿』 監督/山下敦弘
互いに駆け出しの身である脚本家と映画監督は、顔見知り程度の仲にもかかわらず2人きりで温泉街を散歩するハメに。そんな2人が数々の予期せぬトラブルに襲われるオフビートコメディ。(83分/'03)
『無能の人』 監督/竹中直人
かつては売れっ子漫画家だった男は、多摩川の河原で石を売る商売を始める。そんな彼と家族を中心に、現代社会から落ちこぼれた人々がコミカルに綴られる。竹中直人の監督デビュー作。(107分/'91)
『風の中の子供』 監督/清水 宏
坪田譲治の児童文学が原作。小学1年生の三平は、父が私文書偽造の疑いで警察に連行され、家族と離れて叔父夫婦に預けられる。かくして、田舎の冒険に満ち溢れた三平の日々が始まるのだった。(86分/'37)

河合優実(俳優)
映画のビジュアルに宿る美しさを初めて思い知らされた『夢』
高校生の時に、父の趣味なのか、家にDVDがあったので観たのが、黒澤明監督の『夢』でした。当時はまだあんまり映画を観ていなかったんですが、「すげぇ……全部のカットが絵みたいだ」とものすごくびっくりした記憶があります。
8つのエピソードを収録したオムニバスのような作品なんですが、どれも一番美しい構図の映像が、1秒ごとに続いていくような感じがあって、映画のビジュアル的な力みたいなものを、初めて知った瞬間でした。細かいストーリーはほとんど覚えてないのですが、今もそのインパクトだけは体に残っています。
『夢』 監督/黒澤 明
黒澤が自分の見た夢を基に撮り上げたオムニバス作品。文明批判を織り交ぜた全8話の物語が、比類なき映像美で描かれる。一つのエピソードではマーティン・スコセッシがゴッホを演じている。(120分/'90/日米合作)
