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マリ出身のクールなシンガー・ソングライター。『Tchamantché』ロキア・トラオレ。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.29

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Tchamantché』Rokia Traoré(2008)

マリ出身のクールな
シンガー・ソングライター。

マリからはホントに素晴らしいミュージシャンがたくさん出ているけれど、ロキア・トラオレもその一人です。ただ彼女はちょっと変わり種で、外交官の娘として生まれて、その関係で幼い頃から外国で暮らしてきた人。暮らした国はアルジェリア、サウジ・アラビア、フランス、ベルギーの4ヵ国にわたります。

ですから、グリオと呼ばれる語り部の家に生まれ育ったトゥマニ・ジャバテや、幼い頃からマリでミュージシャンを目指したサリフ・ケイタとは、同じマリ出身でも育った音楽環境が違っています。かなり多様な音楽と触れ合ってきた中で、彼女自身はシンガー・ソングライターとして歌っています。

2000年に2作目のアルバムの発売記念で来日したことがあって、そのときにライヴを観たんですが、彼女はアクースティック・ギターを弾きながらシンガー・ソングライター然と歌っていて、低めのトーンの声もステキでクールな印象でした。そして曲の途中で突然、映像でしか見たことがないアフリカの大股開きのダンスを披露し始めて会場は瞬時に沸きました。

音楽的には一切そういう熱いものを見せていなかったので、あれにはビックリしました。海外での生活が長かった彼女は、自分のアイデンティティであるアフリカ的な部分もおろそかにしたくないんだろうと気がつきました。

『Tchamantché』はチャマンチェと読みますが、2008年に出た彼女にとって4作目で、僕が一番好きなアルバムです。このアルバムは、ロキア・トラオレの歌と彼女が弾くセミ・アクースティックのギター、そしてマリの素朴な弦楽器ンゴーニと、同じくマリの打楽器、それとバック・ヴォーカルの女性の声というミニマルな構成ですが、それぞれの音がキレイに立ち上がっていて、とても耳に心地いい仕上がりになっています。

右チャンネルからンゴーニ、左チャンネルから彼女のギターが聞こえる音像になっていて、特にヘッドフォーンで聴くとそのバランスが印象的に響きます。今回は「Koronoko」を選びましたが、全曲が素敵な作品です。

Rokia Traoré

CD-6:「Koronoko」

「コロノコ」という言葉の音感がよくて、雰囲気がいい曲ですね。ロキア・トラオレの低く艶やかな声にKORONOKOというフレーズが乗るとその音感がとても耳に心地いい。バック・ヴォーカルの女性の声とのバランスもいいし、ギターとアフリカの弦楽器ンゴーニの音色の組み合わせも最高です。