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根本宗子のあまい東京記:演劇への情熱を支える、ぎっしりフルーツと神田の町

根本宗子が思い出のスイーツを綴る連載。前回の「バレンタインの銀座で見つけた、束の間のときめき」を読む。

illustration: Michiko Furutani / edit: Emi Fukushima

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第13回〈近江屋洋菓子店〉の「フルーツポンチ」

1884年創業の老舗のロングセラー。オレンジやバナナなどの定番から旬のものまで、常時12~15種のフルーツが程よい甘さのシロップ漬けに。3,726円 ※箱入り(本店TEL:03-3251-1088)

体に潤いをくれるまるでビタミン剤

東京で舞台をやっている時、もらって嬉しい差し入れ第1位と言っても過言ではないのがこの近江屋洋菓子店のフルーツポンチ。

レトロなデザインの包装紙と味わい深いピンクのリボンに包まれた包装を解くと、容器にぎっしりと詰まったフルーツたちがいて、楽屋でクタクタになっている体に潤いをくれる。どんなビタミン剤を飲むよりも一気に体にビタミンが入るような感覚になって癒やされる。

神田には高校時代から古本屋巡りでよく行っていた。日本の古本屋には舞台の戯曲やパンフレットはあまり置かれていることがないのだが、神田に唯一ものすごい舞台関連の書籍が豊富な古本屋があることを高校時代に発見し、演劇少女だった私はそこに入り浸っていて、お小遣いが貯まるたびその店で本を買っていた。

本を買って淡路町まで歩いて近江屋でお茶をするコースは子供の頃から大好きで、現在は喫茶コーナーがクローズしてテイクアクトだけになってしまっているが、いつかまたあの喫茶コーナーが復活してほしい。

家の近所以外で一人でお茶をする初めてできた行きつけの記憶。たっぷりぎっしりのフルーツポンチを独り占めする瞬間は何にも代えられない。

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