焼酎王国・宮崎で繰り広げられた、
激旨鮨とハードリカーの饗宴
木宮一光
いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ。お手合わせ、よろしくお願いします。
黒木信作・柳田正・渡邊幸一朗
楽しみ!
黒木
木宮さんは、鮨とワインの絶妙のペアリングで知られる人物ですから、期待が高まります。
木宮
ここは宮崎。日本酒にもワインにもできない、焼酎ならではの合わせ方をご披露しましょう。
黒木
焼酎は残糖がなく香りを味わうものですから、お鮨にお茶を合わせている質感に近い。いい組み合わせですよね。さらに焼酎と醤油の香ばしさは同じメイラード反応から生まれていて、合わさると同調しますよ。
木宮
焼酎は“食中に合わせる液体”として実に優秀。鮨と合わせると、香りと味がのってくる。
黒木
焼酎は完全な飲み物ではないんです。糖質もなく、香気成分しかないからこそ、お鮨と一緒になると立体的になって、素晴らしい食べ心地、飲み心地になる。
木宮
糖質がないのに、甘く感じますよね。お鮨は、シャリとわさびとネタという非常にシンプルな構成。焼酎はそれに、香りの要素という複雑味を足してあげられる液体なんです。
黒木
魚の味を生かしたうえで、爽やかに切ってくれるから、次に進める。本当にお腹が空いてくるという感覚がありますね。
柳田
今、いろいろな蔵元が、黒木さんのところのように、新たな切り口で焼酎を造り始めている。技術の向上もありますが、食事とマッチするものも増えてきた。
渡邊
うちは5〜6年前から「お芋総選挙」と称して、一般の方に投票してもらって毎年1銘柄造っています。自分だと無難なものを選んでしまいがちなので。意外な発見があって勉強になります。
黒木
柳田さんは、蒸留する時の熱の加え方で、酒質に香ばしさや力強さを与えるという特徴があり、渡邊さんは、畑の原料を多様化して方向性を見出している。うちは、畑の段階から、酵母、麹造り、熱の加え方も、個性を引き出すためにいろいろやってます。「ワインはわかるけど、焼酎はどれも同じでしょ」と言われるのが許せなくて。個性があふれています。
柳田
今、造り手も飲み手も若いですよね。嗜好もかなり違います。
黒木
コンビニでも毎週のように新商品が出ていて、意識していなくてもトレンドや新しい味覚にあふれていますよね。
渡邊
そうですね。
柳田
最近、フルーティな焼酎が増えてきました。フルーティなのにまとわりつかず、ベタつかない。これは蒸留酒だからこそ。
木宮
ですね。焼酎は香りの要素が際立っているので、考えやすいですね。今回、3蔵の特徴を生かしつつ、きれいにペアリングできたと思っています。
黒木
ペアリングは、おのおのの味が重なって、高まるものがあるかどうかがポイントですよね。
木宮
焼酎は、温度感もいじれるので、工夫のしがいがある。しかも、安い。ただ、あくまでメインは料理、鮨です。こちらが、どう合わせられるか。どう提案できるかが重要になってきます。
黒木
木宮さんはソムリエ兼エンターテイナー。宮崎の緩さと仕事の真面目さが共存したもてなしのプロです。
木宮
うちは、ワイングラスで焼酎を提供することが多いのですが、お湯割りだけはグラスが合わない。もちろん、高温では入れませんが、低めの温度でもダメでしたね。やはり、タンブラーか陶器でないと。
柳田
木宮さんのペアリングでお鮨をいただいてみて、わが蔵の焼酎ながら、思いもかけない組み合わせに驚き、しっくりフィットしているのに感動しました。
渡邊
この余韻に浸りながら帰ります。ごちそうさまでした。
木宮
いやいや、こちらこそ、ありがとうございました。
「OSUZU GIN」× 鰆/烏賊
「宮崎のキンカン、日向夏(ひゅうがなつ)、ユズと、柑橘の香りがふんだんにある『OSUZU GIN』だから、鰆の旨味が来たあとで、シャリとネタの間の青ユズの香り、さらには、炭酸割りに搾った宮崎名産のへベスが同調して、おいしさが増幅されますね。烏賊は、ポン酢のような感覚で柑橘が甘味を引き立ててくれます。塩と柑橘の相性もいい」(黒木)
「球」× 𩺊/太刀魚
「『球』がリリースされた時、飲食店の間で大きな話題に。さっぱりしたワインと同じような役割を担ってくれます」(木宮)。「『球』には、柑橘系と紅茶のような香りがある。𩺊の上品で繊細な質感と合ってますね。木樽で仕込んでいるので、より香ばしさが脂分を中和しつつ、太刀魚の香ばしさとぶつからず、調和しています」(黒木)
「千本桜」× 鮪 赤身/鮪 トロ
「度数の高いものをお湯割りにすると、ふっと鼻につくことがあるのですが、絶妙な温度と割り加減で、まったく感じない。赤身も脂があり、また、トロはさらに脂が多く、甘味と旨味がある。普通なら、トロのあとには小休止したいところですが、そのオイリーさを『千本桜』が包み込んで、人の鮨まで食べたくなります」(柳田)
「山ねこ」× 小肌/鰺
「『山ねこ』はライチ、マスカット、バラみたいな香りで、アロマティックで華やか。どうぶつかるかと思いましたが、〆と同調するのではなく、別の余韻が残る」(黒木)。「ワインでいえば、サヴァニャン。ミネラル感が塩と酸を切ってくれます」(木宮)。「なるほど。猫にひっかかれたような感覚。『山ねこ』なだけに」(黒木)
「朗らかに潤す TRY 2020」× 雲丹/鰹/穴子
「雲丹は磯臭さが広がると思って、これまで焼酎と合わせたことはありませんでした。『TRY 2020』は、白安納というイモが原料ですが、ねっとり甘味が強い。それが雲丹の甘味とピタッと合ってびっくり。多少、土の香りを残したまま仕込むので、スモーキーなフレーバーがあるから、鰹の藁の香りとも、穴子の土臭さとも合う」(渡邊)
「麦麦旭万年」× 車海老/鰻
「宮崎産二条大麦100%。この麦焼酎を仕込んでいる時に醤油のような匂いがしてくるんです。そのせいか、車海老の醤油の香りと、それを邪魔しない麦の程よい香ばしさがぴったりですね。甘味が強く出てきます。また、鰻の香ばしさともしっとり馴染みます。手巻きにゴマが入っていることでよりフィット。香ばしさが倍増します」(渡邊)
「栃栗毛MIZUNARAスピリッツ」× 玉子/栗アイス
「ミズナラの樽を使っているので、スモーキーな香木のようないい香りがします。ふわふわした甘さの玉子とマリアージュすることで、しっとりした洋菓子のよう。1+1が3にも4にもなる。相乗効果ですね。41度ですからそのまま口に含むと焼けるような感じになりますが、アイスにかけると、度数を感じさせないまろやかさに」(柳田)