新宿から世界を見つめる
俳人・北大路翼さんの夜の城
ここは僕の秘密基地です。
会田誠さんが〈芸術公民館〉という名前で立ち上げたアートサロンを数年前に引き継いで今の形になりました。僕と石丸元章さんの2人で始めた句会にだんだん人が集まってきて、いつの間にか「屍派」を名乗るようになり、今ではこの場所で月に1度、定例句会を開催しています。基本的に全員初心者だけど、僕はただ紙とペンを渡すだけ。
みんな見よう見まねで詠み始めて、一緒に遊んでいるうちにルールを覚えてくる。僕は場所と遊びを提供してるだけで、指導してるわけではないんですよ。俳句って人間が詠むものだから、初心者でもいろんな経験をしてる人は結構面白い句を詠む。
歌舞伎町あたりをふらふらしてるような人たちこそ、実はいろんな経験をしてるじゃない?それをきちんと語ろうとするとうまくいかなくても、俳句なら一場面を切り取ることで言いたいことが伝わるし、伝わっちゃいけないことは隠せる。
人生における失敗って人間を形成するのに一番大事なことだと思うし、それを積み重ねたことが俳句になっていくんだと思います。僕の場合なら、飲む打つ買うを数十年、しかも負け続けてるわけだけど、それが僕の「俳句的精神」を形成している。すべての表現は反権力、抵抗ですから。表現のエネルギーはそこから生み出されているんです。
サロンという場所があって、そこで句会が開けるのは、僕にとってはすごく大事なことなんです。参加者から刺激も受けるし、自分の句に、目の前にいる人がどんな反応をするか、どう思うかを見ることができるのが大事でね、それによって句が変化していく。それにやっぱり、俳壇という権力への抵抗も続けていかなければいけないわけですから。
〈砂の城〉は、誰が入ってきてもいいし途中で出ていってもいい、24時間開けっ放しの公園みたいな場所。僕も句会の途中で遊びに行っちゃったりするしね。青山や三軒茶屋でやる句会にも参加してるけど、参加者の層は全然違います。俳句には詠む人の暮らしが出るから、場所によって全く違う俳句が生まれるし、それぞれ違う面白さがあるんですよね。