解説者:佐藤文香
詠んだ人:藤田哲史、岩田奎、黒岩徳将、斉藤志歩
サイダー
サイダーが光を囃(はや)すこと夏は
藤田哲史
サイダーや魚しらべの皇(すめらぎ)も
岩田奎
サイダーの泡水面を打ち続け
黒岩徳将
旅にまづサイダーの瓶打合はす
斉藤志歩
読み込むほどに発見がある、サイダーの名句誕生!
今回は「題詠」、つまりテーマありきなので、そのイメージをどう料理するかが見どころ。
岩田奎さんの句はサイダーから魚へ、水のイメージで繋がっていますね。「魚しらべの皇」は魚類研究者の皇族といった意味。研究後に揃ってサイダーを飲んでいたら楽しそうですね。
さらに面白いのは「さかな」「しらべ」「すめらぎ」とさ行が連続していること。Sの音の爽快感はサイダーにもぴったり。3語すべてが訓読みで柔らかさも感じられます。技あり、カタルシスありの名句!
虹
虹の沖会いたさもさみしさのうち
藤田哲史
虹は失せたりケチャップとマスタード
岩田奎
クレパス七種まとめて握り虹描く
黒岩徳将
虹見よと隣の人を起こしけり
斉藤志歩
じんときたりクスッとしたり。粒揃いの虹の句
「虹」といえばその色やレアもの感が特徴ですね。藤田哲史さんの句にはレアゆえの儚(はかな)さが。会いたい気持ちが虹とともに現れて消え、元の空にはさみしさが残る。
ただ、俳人としては「沖」に注目したい。「沖」の名句に藤田湘子の「愛されずして沖遠く泳ぐなり」があります。報われない愛を詠んだこの作品のイメージから、一層藤田さんの句の情感が膨らむ。このように、詩的に、かつ現代的に俳句をアップデートする作風は藤田さんならでは。
同様に“らしさ”が滲(にじ)むのが斉藤志歩さん。虹に気がついて、つい、寝ている人に声をかけちゃう性(さが)にクスッとさせられる。ちょっと漫画っぽさも感じますね。こういった人間関係の面白味を味わえるのが斉藤さんの句を読むときの楽しみの一つ。
夕焼
夕焼けはたとえば次のないノート
藤田哲史
夕焼や青歯王(Bluetooth)は歌流し
岩田奎
向かひにも撮り鉄夕焼のホーム
黒岩徳将
夕焼けて水の深きへ魚帰る
斉藤志歩
ジャンクな夕焼けの句?B級俳句、入門!
突然ですが、焼豚玉子飯を知ってますか?愛媛・今治(いまばり)のB級グルメで、チャーシューと目玉焼きがのった丼もののこと。当然、絶品。
そして黒岩徳将さんの句はまさに焼豚玉子飯!きっと「夕焼」とは初取り合わせであろう「撮り鉄」というワードの現代感、その撮り鉄を見て撮影せんとする己に気がつく俗っぽさ、これらのブレンドがB級感を醸し出す……。
この香ばしさは黒岩さんならでは。それに俳句はB級、ではないけれど、雅な和歌が徐々に庶民のものになって成立したもの。グルメくらい気軽に楽しんでいいんです。
参考文献:平井照敏/編『改訂版 新歳時記(夏)』(河出文庫)