冷やし中華とは?
冷やした中華麺の上に細切りにした具材をのせ、甘酸っぱい醬油ダレをかけて食べる。店舗によっては、ゴマダレを使うところも。北海道では冷やしラーメン、関西では冷麺と呼ばれることも多い。中華と名はついているが、実は日本生まれ。夏の国民食としての地位を築いている。
歴史
東京と仙台に分かれる
冷やし中華の元祖。
冷やし中華の発祥には諸説あるが、〈揚子江菜館〉と仙台の〈中国料理 龍亭〉がその誕生と普及に大きく影響したことは間違いない。前者が「五色涼拌麺」を売り出したのは1933年。2代目店主・周子儀が考案したという。「大好きだった〈神田まつや〉のざるそばと、自宅で食べていたゴマダレの冷たい中華麺をヒントにしたそうです」(常務・沈松偉さん)
一方、〈龍亭〉の初代・四倉義雄が1937年に考え出したのは「涼拌麺」。「宮城県中華料理生活衛生同業組合の前身で組合長を務めていた初代が、夏に落ち込む売り上げ向上を目指して発案。夏のスタミナ源として売り出したと聞いています」(4代目・四倉暢浩さん)。29年9月には、味の素から発行されたレシピ本『料理相談』に冷麺(冷やしそば)というメニューが掲載されていた記録も残る冷やし中華。その歴史は奥深い。
麺
もみ洗いに耐える弾力性と
喉越しの良さがポイント。
ゆで上げた後に水でさらすため、冷やし専用の中華麺が使われる。写真は〈揚子江菜館〉で使用しているストレート細麺。もみ洗いをしても切れないコシのある麺を製麺所に特注しているという。卵を練り込むことで、ツルツルとした食感と豊かな風味を実現。
同店に限らず、喉越しの良いタイプが好まれるのは夏麺の特徴だろう。太さは細麺〜中細麺が一般的だが、太麺で勝負する店も。代表格は、京都の老舗〈中華のサカイ〉。1959年に冷めん(冷やし中華)の提供を始めて以来、加水率の高いモチモチのストレート太麺が多くのファンに愛されている。
タレ
甘酸っぱい醬油ダレと
コクが魅力のゴマダレ。
醬油に砂糖や酢などを加えた醬油ダレと、すったゴマを醬油、味醂、砂糖などで延ばしたゴマダレの2種類が存在する。〈揚子江菜館〉で供されるのは、醬油、砂糖、酢、鶏ガラベースのダシなどからできた醬油ダレ。合わせる順番も厳密に決まっている秘伝である。
醬油とゴマの2種類を出す〈龍亭〉も、原点は醬油ダレ。こちらはアップデートを重ね、現在は柑橘類の搾り汁をたっぷり加えた爽やか系に。一方、ゴマダレ一本で勝負するのは〈中華のサカイ〉。本醸造の米酢で酸味、辛子とマヨネーズでアクセントを加えた甘めのタレは完全オリジナルだ。
具材
それぞれに込められた
意味を知ると、また楽し。
色とりどりの具材が盛られたルックスの良さも、冷やし中華の魅力。下にあるのは、〈揚子江菜館〉の10種類の具材の集合写真だが、なかなか圧巻だ。富士山の稜線が美しく見えるよう長さは7cm、太さは麺とほぼ同じに切り揃え。
ベースは四季を表現したチャーシュー(春の土)、キュウリ(夏の緑)、タケノコ(秋の落ち葉)、寒天(冬の雪)のほか、エビ、絹サヤ、シイタケ、富士山にかかる雲をイメージした錦糸卵、そしてその下に隠されている肉団子とウズラ卵。「贅沢に作ろう!」が最初のコンセプトだというが、ここまでゴージャスなのも珍しい。
では逆にシンプルを誇る店はどこなのか?それは〈中華のサカイ〉だろう。メインはハムもしくは焼き豚、それにキュウリと刻みノリをパラパラと……。このミニマルさが麺&タレとの絶妙なバランスを見せるところが、とにかくすごいのである。
揚子江菜館(神保町)
冷やし中華
1906年創業の上海料理店。池波正太郎ら多くの文化人に愛される。蒸し鶏と野菜のトッピングにゴマダレをかける三絲冷麺1,250円も、第2の冷やし中華として人気。
冷やし中華を
家庭で味わう。
冷やし中華が全国に広まったのは1960年代。まだ外食が贅沢だった当時、安価で手軽な即席麺がその後押しをした。現在まで続くロングセラーとして知られるのは66年に東洋水産から発売された《マルちゃん 冷しラーメン》。醬油ベースの液体スープとふりかけ付きで、冷やし中華の味をスタンダード化した。
一方、ゴマダレ味の普及に貢献したのは、82年発売の明星食品《中華三昧 涼麺》。中華料理店の芝麻醤を使ったメニューをモデルに開発された本格派だ。また最近では取り寄せも充実。特に〈中華のサカイ〉(TEL:075-492-5004)は、具材まですべてがセットされ人気だ。