愛って、勝手でいい
出演した『市子』という映画は、私が演じた失踪した市子という女性を追っていく物語なのですが、それと同時に、私は市子自身が自分の姿を探す話でもあるのではないかと思いました。自分が望む幸福に近づけば近づくほど、それが叶わない何かが立ちはだかってくるという、その苦しさが引き裂かれるほど痛くて。
明日も一緒にいたいと思う人と共に生活を送ることの幸福を知ってしまったからこそ、この先も望んでしまうのだろうなと。市子の中に他者を愛しているという実感があったのかどうかはわからないのですが、それに似たものを求めていたような気がします。
『ちひろさん』の好きなところは勝手なところなんです。相手のために何かをするというより、自分がそうしたいからそばにいたり、距離を置いたりする。それって、人の本質な気がしていて。それから、ものを食べるシーンも印象に残っています。私は、何かを食べている時に、その人が何を大切にしていてどういうものに感動するのか、ほんの一瞬だけ心が垣間見える気がするんです。
ちひろとバジルがたこ焼きを食べるシーンで、バジルがとても可愛らしい動きをするのですが、そこには、構成上の狙いやお芝居などではなく、演じ手の中にある何かが出てきているような気がして。私は、映画の中のそういった瞬間がとても好きなんです。