Love

植物愛好家のSTYLE SAMPLE。黒澤充式ベランダ園芸のススメ

一株一株が個性的な珍奇植物は、その付き合い方も人それぞれ。自分らしく植物のある暮らしを楽しんでいる植物愛好家のスタイルをご紹介しよう。

Photo: Atsushi Ishihara, Chihiro Oshima, Fumiko Kawazoe, Kunihiro Fukumori, Nagahide Takano, Natsumi Kakuto / Text: Chisa Nishinoiri, Keiichiro Miyata, Mako Yamato, Shiho Yoshida

140鉢もの多肉植物をすべて、都心のマンションのベランダで育てているスタイリストの黒澤充さん。植物の個性、自宅環境と向き合い、楽しく育てる黒澤式ベランダ園芸のススメ。

黒澤充 ベランダで育てる多肉植物
午前10時頃のベランダの様子。午後には日が傾くが午前中の日照だけでも十分育つという。ベランダは、意外と雨もしのげる。

過保護にするより、外でたくましく育てる。
週1回の水やりが楽しくて仕方ない。

「最初に育てた多肉植物は、たしかオザキフラワーパーク(*1)で買ったハオルシアのオブツーサ。そこからアガベ、コーデックスなどいろいろ育ててきましたが、最終的に行き着いたのがユーフォルビア。圧倒的に見た目重視。だって、変な形じゃないですか。特にタコモノ(*2)が好きで、気がつくと何時間も眺めていますね」

オベサ、アブデルクリ、アトロビリディス……etc.、ユーフォルビアだけで54鉢。アロエ、アガベ、コーデックスなども合わせて総勢約140鉢。これらの植物を自宅のベランダで育てているスタイリストの黒澤充さん。黒の素焼き鉢(*3)に珍妙な植物がずらりと揃う姿は圧巻だ。

「僕は基本的に、植物はベランダでしか育てません。家の中に入れていたら風通しが悪くて、みんな死んじゃいますから。冬でも基本的に出しっぱなしで、自宅に取り込むのはユーフォルビア アブデルクリやプセウドリトス クビフォルメなど、寒さに弱い1、2種類くらい。

引っ越して6年くらいになるけど、ここに来てから植物たちがすこぶる元気が良い。以前の物件は日当たりもまあまあ良かったんだけど、ベランダの塀の造りが壁だったんです。だから物件探しで一番気にしたのはベランダの条件。今の家は4階の南東向き。日差しを遮る高い建物が隣接していないので、日当たりは抜群。しかも塀が格子状の柵なので、風の通りがすごく良くて、光も満遍なく当たる。

黒澤充 お気に入りのフスカ
最近お気に入りのフスカ。〈グランカクタス〉で購入した巨大な輸入株。

前の家では、徒長(*4)して形が崩れてしまった株もあったけど、ここに越してから徒長が収まり、幹も以前より太くなってる。土(*5)や水やり(*6)の仕方を変えたわけではないので、このベランダはかなり理想的な環境なんだと思います。今の家で足りないものといえば、温度くらいかな」

植物を育てるうえで何より大切なのは光、風、水のバランス。加えて、温湿度を管理できる温室があれば、より形の良い植物に育てることができる。ゆえに自宅に温室を持つ愛好家も少なくないが、黒澤さんの自宅に、温室はない。

「テクニックで環境をどうこうするのではなくて、自分のできる範囲内で育てていくことが楽しいんですよね。植物を育てるには、光と風が必要。でも都心で完璧な環境を整えるには限界がある。じゃあほかに何ができるか?本を読んだりナーサリーで話を聞いたりすると、育て方やいろんなコツを教えてもらえる。

でも、その方法が今の環境や自分に合っているかはやってみないとわからない。ベランダで素焼き鉢に植え替えて育てるスタイルは、植物の生存確率を上げるため試行錯誤の末に辿り着いた一つの答えなんです」

床にすのこ(*7)を敷き、素焼き鉢に植え替えられた植物群はきめ細かな配慮の賜物。黒澤さん独自のメソッドでベランダ園芸を極めてきた。
「プラ鉢で根を保湿できた方がよく育つ種類もあるけど、見た目的に納得できなくて、僕が辿り着いたのは黒い素焼き鉢。黒は光を集めて鉢の中も温まるし、素焼きの気泡から程よく水分が抜けて通気性が良いので、根腐れしにくい」

定説では、植え替えは春秋にするのが良しとされているが、植え替えにもマイルールがあるよう。
「植物を買ったら即日植え替え。が、僕のルール。早く植え替えたくて、季節なんて待っていられない(笑)。土は一般的な多肉植物用のものを使っています。アロエなど、素焼き鉢と組み合わせると水が抜けすぎてしまうものは、保湿性の高い観葉植物用の土を入れてバランスを取っています。

化粧砂代わりに使っているのはウッドチップ(*8)。化粧砂だと風が強い日は飛ばされるし、ベランダも汚れる。そこで園芸用のウッドチップを砕いて使ってみたら調子がいい。風で舞うこともなく、保温効果もあるみたいで冬は霜も防いでくれる。しかも飛び散った種を受け止めてくれるから、放っておいても勝手に実生(*9)してくれて、とてつもなく理にかなったアイテムでした」

まずは植物をよく研究、どう育てたいかが大切。

状態良く育っている黒澤家の植物。何か秘密兵器があるのでは?と思わずにはいられないが、「う〜ん、ないと思う」と、あっさり。

「植物それぞれの種類によって、寒さに強かったり、日差しを好んだり、多湿に弱かったりと、その性質は全然違うので、水やりの頻度だけとっても一概にコレが正解、というわけにはいかないと思う。僕も育て始めた当初は、個体によって水をあげる頻度を変えたり、冬越しが苦手な植物は室内に入れたりと、いろいろと気を使っていました。

でも、すべて把握しきれなくなって挫折してからは、水やりは毎週土曜日の1回。冬場も基本的に外に出しっぱなしと決めたんです。そしたら気を使っていた頃よりよく育つ。そんなに過保護にしなくていいのかも、と気づいたんです。もちろん、この育て方が正解ということではない。

僕は日焼け(*10)を気にしないから外に出しっぱなしでいいし、大きく育てたり増やしたいというより、このサイズ感が好きだから少しずつ生長を楽しみたい。
素焼き鉢が揃う風景もかっこいいと思っている。要はどう育てたいか。生長する姿をイメージして、そのために試行錯誤することが植物と付き合う楽しさだと思うから」

黒澤充 ベランダで育てる多肉植物
自然光が燦々と注ぎ風が気持ちよく吹き抜ける自宅のベランダに大小様々な140鉢がずらり。

黒澤充的ベランダ園芸メモ

*1:多彩な種類が揃う大型植物店は初心者にもオススメ。ほかに〈鶴仙園・西武池袋店〉も有名。一歩踏み込んだこだわりの株を探したい人はナーサリーを訪れるのもいい。

*2:短い茎からにょろにょろと枝を出し、その独特の風貌から名づけられた通称。黒澤さん所有のフスカ、ガムケンシス、デセプタなどが該当する。

*3:通気性の良い素焼き鉢は多肉植物の栽培に適している。かつては背の低いものを使っていたが、植物の生長に備えてより土が多く入るものを求め、背の高いものに移行。最近は一般的な鉢形より寸胴タイプがお気に入り。植え替える時は、土を上から押し付けず鉢を叩いてならすのが黒澤式。土を詰めすぎないことで根を潰さず、鉢の中にある程度空気を入れるため。

黒澤充 愛用していた素焼き鉢
黒澤さんの素焼き鉢の遍歴。茶色の鉢も使っていたが、辿り着いたのは黒。

*4:植物の枝が光を求めて過剰に伸びてしまうこと。伸長生長が勝り、内容の充実を伴わない細長く貧弱な生長を指す。

*5:黒澤さんが使っているのは〈プロトリーフ〉のサボテン・多肉植物用の培養土と、根腐れ防止用の軽石。特別なものではなく、ネットでも購入できるポピュラーなアイテム。

黒澤充愛用 植物用の土と石
《サボテン・多肉植物の土》(右)と鉢底に敷く《かる〜い鉢底石》(左)。

*6:使っているのは〈Haws〉の4ℓジョウロ。140鉢分の水まきのために何度も台所とベランダを往復するが、週に1度、土曜日の水やりが何より楽しいそう。「細かいことは気にせず、上からバシャバシャと水をまいています」

*7:ベランダの水はけがイマイチだったため、底上げのために導入。鉢受け皿の代わりにもなり底が直接床に触れず、根腐れ防止にも一役買っている。

黒澤充 ベランダで育てる多肉植物
ホームセンターで購入したものをベランダに合わせてカットして使用。

*8:庭や花壇に敷くウッドチップはそのままだと大きすぎるので細かく砕いて使用。泥はねによる植物の病気防止や地中への害虫侵入対策にもなる。日に焼けると黒く変色する。

黒澤充 愛用の鉢
〈プロトリーフ〉で購入できる一番小粒サイズをさらに細かく砕いて使用。

*9:植物が種から芽を出して生長すること。子房から種が弾け飛ぶので種を集める時はガーゼなど袋で囲うことが多い。黒澤家の場合、知らない間にウッドチップの上や隣の鉢に種が飛び散り、自然に実生することもあり、黒澤家生まれのタコモノも育っている。

*10:直射日光に当たりすぎて葉が日焼けしたように変色してしまうこと。美しい緑を保つために、日差しの強い真夏などは遮光ネットを使ったり明るい日陰に移動させるとよい。