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吉富愛望アビガイルが振り返る、 MY STUDY HIGH。人生のなかで圧倒的に勉強し成長した瞬間

留学、大学での研究の日々、新人時代の先輩からの100本ノック(⁉)、人生の中で圧倒的に勉強し、成長した時期が誰にでもあるはず。それらはその後の人生の糧ともなる。振り返る「STUDY HIGH」、あの頃。

Illustration: Ryo Ishibashi / Text: Soh Kuroda

まだ見ぬ価値観や評価軸の探求。
イスラエルの砂漠から始まった、
終わりなき、学びの旅。

古代から様々な文明が交錯してきたイスラエル。その砂漠で偶然出会った動物の骨が一人の少女の知的好奇心の扉を開き、「学び」の旅に誘った。

投資銀行のアナリストであり、多摩大学客員研究員として培養肉に関するルール作りを行う〈細胞農業研究会〉に参画。昨年『Forbes JAPAN』誌の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選ばれた吉富愛望アビガイルさん。彼女が本格的に学びに目覚めたのは中学生の頃に遡る。

「昔からよく両親が博物館に連れていってくれて、この美しい自然はどう成り立っているんだろう?と考えるような子供でした。その後中学生になり、旅行で訪れたイスラエルの砂漠でキツネの顎の骨を拾ったんです。

そこで、動物の骨格は生きやすいよう種族ごとに最適化されていること、そして一つの骨が個体ごとの生活環境を物語っていることを知り、感銘を受けました。自然の美と個体の個性の組み合わせに奥深さを感じたと言いますか……。以来、生物学を志すようになりました」

早稲田大学から東大大学院に進み、生物学の基礎となる物理学を徹底的に学んだ吉富さん。しかし次第に従来の勉強に行き詰まりを感じるように。自分にとって本当の学びとは?そう思い悩んだ頃に出会ったのが仮想通貨、さらにそのインフラとなるブロックチェーンの世界だった。

「これまで蓄積してきた学びにとらわれず、新しい価値観を生み出したい。興味がそこに移ってきた頃に暗号資産(仮想通貨)に出会いました。国境のない暗号資産なら、少額の手数料で世界中に送金できる。それを用いて、従来は価値が測りにくかった様々な活動や物事の社会貢献度を数値化し、新しい評価軸を作れないかと考えたのです。
そこで、大学院を中退してブロックチェーンに関わる企業に就職しました。当時は多忙を極めたのですが、ただ考えるのではなく、走りながら模索する習慣を身につけることができました」

新しい学びの対象とスタイルを得た彼女は、実体験を糧にする「実践」こそ真の学習であると確信。世界トップクラスのハイテク産業を誇る母国イスラエルの産業構造を学ぶべく、現地でボランティアに従事する。そのアグレッシブさを友人は“自分の体で実験しているようだね”と評した。

「知識を詰め込む勉強なら学生時代がピークでした。でも知識だけで物事を捉えたり判断したりしようとすると、思い込みが勝って客観的な視点を持てなくなる恐れがある。体験をベースに考えるようになった一番の理由です。現在の仕事や研究もその延長線上にあって、その意味では、今が一番積極的に学んでいる実感があります」

客員研究員、アナリスト・吉富愛望アビガイル イスラエルの砂漠 回想シーン
家族旅行で訪れたイスラエルの砂漠。吉富さんがキツネの骨を拾い、そこから現地の案内人が暮らしぶりを推測、解説してくれたことで生物学に興味を持つように。

昨年、多摩大学大学院で学び直すことを決意した吉富さん。社会問題や各産業の課題を解決するイノベーションを生み出す環境を整えるべく、様々なルール整備の研究を始める。その過程で、日本が国際社会に誇れる新たな産業を生み出し、発展させる必要性を感じるようになった。

「私自身イスラエルと日本のダブルで、世界での自国の立ち位置を意識する機会が多かったのもあります。それに、日本が世界的にアドバンテージを得ている産業はまだまだ少ない。細胞農業の最前線である培養肉に携わるようになったのは、和食というブランドと、優れた畜産技術を持つ日本が培養肉の分野で将来性を秘めているため。動物から取り出した細胞から作る培養肉は、食肉産業の問題を解決する選択肢としても注目されています」

イノベーションに関わる以上、金融業界の最前線にも触れる必要がある、と投資銀行にも身を置く吉富さん。走りながら考え、学ぶ。その活動は多様に見えるが、すべては新たな価値観を生み出すためのプロセスだ。

「今思えば、行き詰まった頃に新たな学び方を知ったことが大きかった。興味を具現化するには、勉強に終わりはないと思います」