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アート界注目の、ストリート出身アーティスト 「MOZYSKEY」の新境地に触れる

ストリートのアンダーグラウンドシーンで活動していたアーティストが、世界の名だたる美術館にピックアップされる。そんな夢物語を実際に体験したMOZYSKY(モザイスキー)の個展が東京・代官山で開かれる。企画をしたギャラリー「Studio 4N」の河村充倫さんに開催までの経緯を聞く。

text: Mitsutomo Kawamura

ギャラリーを持つということ

代官山にギャラリー「Studio 4N」を立ち上げて4年。ファッションPRという仕事を生業としながら、様々なブランドのプロモーションをしていくなかで、商品のコラボレーションやイベントでのコンテンツとして、あらゆるジャンルのアーティストと呼ばれる方々とお仕事をご一緒させてもらった。

それは作家にとっては、依頼された内容に沿って制作する、俗にいう“案件仕事”ということになる。もちろん、それらの作品やパフォーマンスはすばらしいものだったけれど、いつしか彼らが純粋に自由に表現した、作家が主語の作品展を多くの人に観てもらいたい!と思うようになった。

Studio 4N内観
代官山にある「Studio 4N」の内観

先輩と対峙し、襟を正す

それが可能になる場所を持ちたい、代官山に「Studio 4N」というギャラリーを立ち上げたのは、自然な流れだった。1990年以降の原宿を中心としたストリートカルチャーの中で青春を過ごした自分にとって、スケーターやアーティストは、ファッション界隈の人たちと同じくらい身近で格好いい存在。

中でも憧れの先輩たちと仕事をすることが、自分のモチベーションでもあった。当時の先輩たちは、引き続き憧れのアーティストとなり、幸いにも仕事で関わるチャンスを得たときなどは、いまだに背筋が伸びる思いなのである。ここでの企画展はいつもそんな感情が渦巻いている。

MOZYSKEYの個展フライヤー
今回の展示案内のフライヤー。

特別な存在であるMOZYSKEY

そんな中でも4月19日(火)から始まる展示は僕にとって特別だ。1990年代からグラフィティアーティストとして、東京のアンダーグラウンドシーンを核に活動する「MOZYSKEY」(モザイスキー)の企画展。彼は国内グラフィティカルチャーシーンでは、知る人ぞ知る存在でありながら、自分と同い年。それでも“先輩”同様にこちらがピリッとしてしまうような孤高の作家なのだ。ここぞとばかりにBRUTUS.jpでの告知をお願いした次第だ。

グラフィティアートの世界に身を置きながら、ストリートシーンから圧倒的な支持を集めるだけでなく、数々のグループ展に参加。水戸芸術館や森美術館、ロンドンやサンフランシスコのギャラリーでも展示するなど華々しい経歴を持つ実力派のアーティスト「MOZYSKEY」。

力強さと繊細な造形が共存するその表現が多くの人を魅了している。近年の活動では「TOGA」原宿店での個展 “MY NAME IS MOZYSKEY” や「B GALLERY」で写真家「赤木楠平」と共に開催した合同展“巳 69”などはBRUTUS読者にとっても記憶に新しいところかもしれない。

作家の打ち出す新境地に震える

今回の個展のテーマは「“Color & Pattern” 文字から柄へ〜」。近年、作家自身の意識が向かっている“宇宙や自然界に実在する模様”と、友人との合同作品の制作を通じて生まれた“人間の個性や人との関係性”などからくるイメージとしての“模様”という2つの観点で作品は作られた。

MOZYSKEYの作品「無題」
「無題」

本展での開催に際して、作家本人から「僕のアトリエにいらっしゃいませんか、そして展示作品とその方向性を確認してもらえませんか?」という連絡があり、それはもう大変な興奮とともに、恐縮しながら大森にある作家のアトリエにお邪魔した。これまでのカリグラフィを中心とした、白と黒の重量感ある作品たちが保管されている部屋を抜け、制作現場となっているアトリエスペースに足を踏み入れたときに、僕の視界を奪ったのは、規則性を持った線とモチーフのレイヤーからなる“模様”と“色”。

離れたところから、観る者をふわり引き寄せておいて、目の前にやってきたところで、美しいモチーフや線の強さで落とされるような感覚だった。そこで、作家よりひと言「今回は、タイトルもなんですが、すべてシンプルにいこうと思っています」。僕も即答で「いいと思います」。これまで、カリグラフ(文字)による白黒の表現を自身の美学とし、貫いてきたグラフィティアーティスト「MOZYSKEY」の新たな境地を感じる展示に注目してほしい。