今を生きる、全員の幸せを肯定してくれる。だから、愛される
サザンがメジャーデビューした1978年。小学4年生だった僕は、『ザ・ベストテン』で観た「勝手にシンドバッド」の衝撃を今でも覚えています。もちろん当時はその良さすら言葉にならなかったけど、後にそれを的確に表現してくれたのは、脚本家の山田太一さんでした。
山田さんとサザンのつながりといえば、83年のテレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』。主題歌もBGMもすべてサザンでした。それを踏まえて40周年の雑誌の特集で山田さんはサザンを評して、時代の幸福をちゃんと享受しようという、自分たちの世代に対する肯定そのものだったと言っている。
フォークなど、それまでの若者向けジャンルの音楽は敗戦・戦後を背負っていて、どこか幸せな時代に対する後ろめたさのようなものがあったけれど、サザンにはそれがないのが素晴らしいのだと。それを読んで、そういうことなんだよなと、妙に納得したのを覚えています。

今回のアルバムでも、もちろん年齢を重ねるごとにいろいろなことへの問題意識を抱えていらっしゃるなというのもありつつ、基本的には時代とか、生きている人に対する“大肯定”が象徴的なフレーズが印象に残りました。「桜、ひらり」のフレーズもまさに、ですよね。何のために歌っているかが、バシッと感じられる。今を生きる人に対するメッセージとか、チアソングではなくて、ただただ“肯定”してくれる歌というのがサザンなのだと思います。
アルバム全体としては、タイアップソングが多数入っているのに、一枚を通してトータルな世界観を感じられるのがすごいなというのが第一印象でした。僕はいつも原坊が歌う曲にも注目しているのですが、いわゆる湘南・江の島モノの「風のタイムマシンにのって」は“ザ・サザン”のパーティチューンで、桑田さんが歌うノリだなと思ったら原坊の歌というのが珍しいし、ドライブソングにもよさそうだなと。「悲しみはブギの彼方に」の「髪の手入れは リンスにシャンプー」のくだりも、原坊がコーラスで絡む曲として、めちゃくちゃ気持ちよかったです。
ほかに「史上最恐のモンスター」では、歌詞で「ウクライナ」など、すごく重いことを歌っているのに、そこに向かっていくまでの言葉遊びが面白くて。ナーバスやセクシュアルも桑田さんだから許されるような、“抜き”がやっぱり素晴らしい。それこそ、初期の「女呼んでブギ」なんて、今歌って許されるのって桑田さんだけじゃないかなと(笑)。
40周年の2018年の紅白で「勝手にシンドバッド」を聴いて、まだこんなに盛り上がるんだ!って驚いたんですけど。それは単に会場だけで起こっていたマジックではなくて、日本列島で、というレベルのものだった。サザンオールスターズというのは、イデオロギーを抜きに、日本国とか、日本国民とか、我々全員に対するタイアップソングをずっと作っているバンドだと思います。
Hit Me Lyrics
君よ次代に向けて 愛を謳って欲しい 今も君は生きてる
「桜、ひらり」より