待ってました!
ついに公開『トップガン マーヴェリック』!
———待ちに待った『トップガン マーヴェリック』が公開になりますね。胸熱なんじゃないですか?
渡辺克己
少なくとも2回は公開延期になっていて。トレイラーや予告編を繰り返し観ているから、すっかり観た気になっているけど。
鶴谷聡平
今度こそようやく公開になってくれるといいね。
渡辺
4DXやIMAX 3Dとか、どの方式で観ればいいのか、悩んじゃうな。
ーーやっぱりお3方にとっても『トップガン』は、重要な作品なんですか?
渡辺
サントラ盤は映画音楽としてはもちろん、80年代のポップス史を代表する大ヒット作ですからね。1986年の公開当時は、ケニー・ロギンス「Danger Zone」やベルリン「Take My Breath Away」(邦題「愛は吐息のように」)など、ジョルジオ・モロダー作/プロデュース曲が大ヒットしていたから、どこへ行っても流れている状態。映画館で観ましたが、超絶カッコいいシーンで使われていたので、思い出深い。今でもよく聴きますよ。
鶴谷
パイロットのマーヴェリック(トム・クルーズ)が着ていたレザージャケットG-1や、認識標のドッグタグとか、軍隊ものもすごく流行ったよね。
渡辺
渋谷にあった〈ファントム〉という米軍のサープラスショップでドッグタグ作ったなぁ。
鶴谷
オープニング&エンディング曲の「Top Gun Anthem」なんか、サントラ・ブラザース史上一番リピートしてプレイしている曲かもしれないね。
渡辺
確かに。パーティのエンディングで、誰かがかけますからね。リズムボックスに、荘厳な鐘の音。そしてスティーヴ・スティーヴンスのバラードなギター。いまだに曲の最後の方になると、自然とサムアップしている自分がいます。
———『トップガン マーヴェリック』の主題歌はレディー・ガガ「Hold My Hand」ということですが、異論はありませんか?
渡辺
前作を鑑みれば、ものすごく真っ当な選択だと思います。他にはどんな曲が使われているのか、楽しみだな。そういえば、2019年の夏に青山zeroで開催した『サントラ・ブラザース プレゼンツ 真夏のミッドナイト・シアター』は、クラブのサウンドシステムで映画を観るというイベントで、そのときに『トップガン』を上映しましたね。
山崎真央
全国各地で映画上映イベントを開催する『旅する映画館 café de cinéma』さんから、映画のライセンスの仕方を教えてもらって、正式に配給会社からお借りしたんだ。借りることができそうな作品リストの中に『トップガン』があって、もう全員一致で即決(笑)。
鶴谷
音楽もよかったけど、それ以上に飛行機のジェットエンジン音や空中戦のSEなど、音響面でもめちゃくちゃ迫力があって。
渡辺
公開から30年くらい経ち、学生時代は何度もVHSでレンタルし、Blu-rayが出たときには思わず買って、家ならいつでも観られる状態だけど、改めて大きめのスクリーン、かつ爆音で観ておいてよかったと思いました。
鶴谷
間違いなく『トップガン マーヴェリック』も、劇場で観るべき映画だと思う。
『トップガン』から紐解く、
ジョルジオ・モロダーの仕事
渡辺
ちょっと引っかかるのは、『トップガン マーヴェリック』の音楽の中心が、前作のジョルジオ・モロダーではなく、ハンス・ジマーなんですよ。
———おー!何が問題なんですか?
渡辺
ハンス・ジマーは大ファンだし、きっと完璧な劇伴を付けてくれることは間違いないと思うんだけど…。しかし、ハンス・ジマーって、ヒーロー映画のスコアに関して、一度引退宣言を出しているんですよ。ジャンキーXL(2014年『マッドマックス 怒りのデスロード』など)とか、後進に道を譲るとか、もう最高に素晴らしい人だと尊敬していたんです。最近、ヒーロー映画の劇伴への復帰宣言をしたんだけど、「まさか『トップガン マーヴェリック』もハンス・ジマーなの?」って、ちょっとガッカリしちゃったんですよね。
鶴谷
『トップガン』は一概にヒーロー映画とは言えないけどさ。でも、前作からハロルド・フォルターメイヤーは続投しているみたいだからさ。
渡辺
フォルターメイヤーが69歳、モロダー御大が82歳か。2人並んだら、確かにすごいんだけどね。
———ジョルジオ・モロダーさんは他にはどんな作品を手掛けられているんですか?
渡辺
イタリア出身の作曲家で、ディスコにシンセサイザーを用いたドナ・サマー「I Feel Love」(1977年)の大ヒットで一躍時代の寵児になり、彼が手掛けるサウンドはミュンヘン・ディスコと呼ばれヒットを連発。ディスコ/ポップスのプロデュースと並行して映画『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)や『スカーフェイス』(1983年)など、シンセサイザーを効果的に使ったスコアを多く発表して。中でも『フラッシュダンス』(1983年)と『トップガン』は、記録的な大ヒット。両作とも、いまだにテレビやCMソングに使われていたりするからすごい。
———『フラッシュダンス』は、日本でもデジタルリマスター公開されたばかりで。確かにシンセサイザーの電子音が印象的で、かっこいいですね。
渡辺
今では当時最先端だったハードウェア(実機)のシンセサイザーは、ヴィンテージと呼ばれるけど。先人たちが試行錯誤しながら残した楽曲は、いまだに強いですね。
ハリウッドに参入していた、
ドイツのエレポップ作
鶴谷
Discogsサーフィンしていて発見したんだけど、この『Der Kuss Des Tigers』(1988年)って、知ってる?
山崎
スコアを担当するトーマス・フェルマンって、ニューウェイブ・バンドのパレ・シャンブルグで、ジ・オーブのメンバー?
鶴谷
そうなんだよね。ジ・オーブの活動を始める少し前にリリースした作品みたいで。全体的にエレポップだけど、1曲だけ「Love Theme」が、アート・オブ・ノイズ「Moment In Love」みたいなアンビエントで。これだけのために買ったんだ。
渡辺
あ、いいですね。ちなみにベルリンでいうとレーベルを主催しているZipは、元々ビゴット20というテクノポップ・バンドをやっていて、映画『硝子の塔』(1993年)のサントラに「Wild At Heart」を提供していて。まだ世界的にエレポップが流行っていたこともあって、ヨーロッパのニューウェイヴ系のバンドの需要が、ハリウッド映画でも高かったんだと思います。
アンビエントと映画音楽の相性と、
ブライアン・イーノの功績
渡辺
6月から京都で開催される予定のブライアン・イーノのインスタレーション『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』で思い出したけど、プロデュースしたエレポップや、自身で手掛けたアンビエントなど、イーノが映画界からアプローチされたのって凄く自然だし、早かったよね。
鶴谷
最近、またイーノ関連のものをよく聴くんだけど、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演、マイケル・マン監督作『ヒート』(1995年)に提供した「Force Marker」の印象が深くて。サントラにはクロノス・カルテットなど、全体的にアンビエントや現代音楽色が強い。それでもイーノの楽曲の存在感は強くかった。
しかし、2020年に発表された『Film Music 1976-2020』には、なんと未発表曲「Late Evening In Jersey 」が収録されていて。これがめちゃくちゃいいんだ。
渡辺
「Force Marker」はパーカッシヴでかっこいいけど、「Late Evening In Jersey 」ってどんな感じ?
鶴谷
もう完全にアンビエント。それから『ヒート』には、パッセンジャーズというイーノとU2のメンバーが映画劇伴制作用に結成したユニットの曲も入っていて。
山崎
2019年にサントラ・ブラザースで、別府温泉地獄めぐりのイベントでDJしたとき、現地の中古レコード屋でパッセンジャーズのアルバム見つけたよね?
鶴谷
そう!あのときに買った『Original Soundtracks 1』には、香港映画のエンドタイトル曲でのちに『ヒート』にも使用された「Always Forever Now」も入っていて。
山崎
いいなぁー!あのアルバムは滅多に見つからないから、本当にうらやましかった。
渡辺
『ヒート』のスコアは、汎用性があるよね。
鶴谷
そうなんだよね。イーノ、ダニエル・ラノワとの共同名義の『Hybrid』(1985年)でデビューし、翌86年にU2のジ・エッジと共同名義で映画『Captiva』のサントラを手掛けた、ギタリストのマイケル・ブルックスも『ヒート』に「Ultaramarine」という曲を提供していて。スリリングなシーンに効果的な曲で、かっこいいんだ。
渡辺
ブライアン・イーノへ取材した際に「マイケル・マン監督は『マイアミ・バイス』など派手なイメージの作品もあるけど、『ヒート』や『コラテラル』など、繊細でダークなトーンの作品もある。一体どんな人なの?」って、仕事のやりとりの仕方を質問したら「彼ほど紳士的で、仕事をやすい監督はいない!」って。イーノとマン監督は、映画のストーリーなどを電話で直接話し、そこから想起して書いた曲を何曲か送ったと言っていましたね。
鶴谷
それだけ?脚本とか、詳細は読まずに?
渡辺
参考資料が多すぎると、いろいろ考えすぎてしまうから、その程度でいいという。
鶴谷
それは貴重な話だね。マイケル・マンといえばWOWOWで放映中『TOKYO VICE』が話題だけど。
渡辺
日本でも撮影していたそうで。観てみたいですね。
鶴谷
それからイーノとの共演で知られるハロルド・バッドの『ある家族の肖像』(2020年)のサントラも、2021年のレコードストアデイでリリースされていて。すごくよかったんだけど、残念ながら2020年に亡くなってしまったようです。
渡辺
イーノと共作した『Ambient 2 (The Plateaux Of Mirror)』(1980年)や『The Pearl』(1984年)など、好きな作品が多いから残念です。
アンビエント/現代音楽は、
あのドキュメンタリー映画にも!?
———その綺麗なジャケットはなんですか?
鶴谷
アンビエント/現代音楽つながりになるんだけど、ドキュメンタリー映画『オードリー・ヘプバーン』のサントラです。これが素晴らしかった。
山崎
ジャケットがすごくきれいだね。
鶴谷
スコアもすごく美しいアンビエントで。スコアを手掛けたアレックス・ソマーズという人は、シガーロスのヨンシーのパートナーみたい。全編オリジナルスコアだけど、最後に有名な「Moon River」のカバーが入っていて。これだけハープ奏者のメアリー・ラティモアの演奏。このバージョンがめちゃくちゃいいんだ。
———ちなみに、3人にとってオードリーって、どんな存在ですか?
一同
うーん…(沈黙)。
山崎
興味ない。
ーー(爆笑)どういうことですか?かわいくないですか?
鶴谷
なんか現実味がないんだよなぁ。
渡辺
確かに。歴史上の人物みたいになっているからね。
山崎
きれいな人なのはわかるけど。
渡辺
でも、今年のお正月、生まれて初めて『ティファニーで朝食を』(1961年)を観たんだけど、本当にいい映画だった。はっきり描かれていないんだけど、セックスワーカーやLGBTQ、人種間の問題など、最近よくニュースになるような事柄が多くて、ちょっと驚いた。オリジナルスコアはヘンリー・マンシーニで、「ムーンリバー」もいいけど、ラテンの曲もあって。サントラ盤も全体的にいいですよ。
鶴谷
『ローマの休日』は好きなんだけどね。原作はあのトルーマン・カポーティだもんね。これを機に映画も観てみますかね。