集め始めたら止まらない
映画Tシャツの世界
———サントラ・ブラザースのイベントの様子を拝見すると、DJの3人やスタッフ、お客さんまで、会場にいるみんなが映画関連のTシャツを着ていますね。
渡辺
DJ側の3人は、イベント初回から映画関連のTシャツや帽子など、映画関連のものを身に着けることにしていたけど。
鶴谷
お客さんまで、いつの間にかTシャツを着て遊びにきてくれるようになった感じで。
渡辺
僕はファストファッション・ブランドの映画Tシャツを買って、何年か寝かせるという手段を取っているけど、2人はどこで買うの?
山崎
ネットで買うかな。6年もサントラ・ナイトをやっているから、Tシャツはかなり溜まってきた。映画のタイトルロゴや劇中写真のものが好きで、20枚くらい持ってる。
鶴谷
僕は劇中のビジュアルを探して、Tシャツ1〜2枚からでも発注できるプリント業者にオーダーするんだよね。あくまでも趣味だから、業者も引き受けてくれる。
渡辺
そうだ、前にあるイベントへ出演したとき、3人揃って ドラマ『ナイトライダー』(1986年から日本で放送開始)のTシャツをいただいたよね。僕はナイト2000のインパネルを模したデザイン、2人はマイケル・ナイトことデヴィッド・ハッセルホフの顔面がプリントされたもの(笑)。
鶴谷
あったねー!サイズが小さいから着られないので、ありがたく家に飾ってある。
渡辺
『ナイトライダー』のTシャツを着ていると、お客さんのリアクションがヤバい(笑)。主に、僕らと同世代の40代以上で、土曜の昼間にやっていたドラマの再放送を観ていた世代なんだけど。
山崎
『ナイトライダー』に限らず、映画Tシャツを着ていると、パーティのときなんか「今日はなんのTシャツですか?」とか聞かれることが増えた。
鶴谷
僕はスティーヴ・ブシェミが好きなので『イン・ザ・スープ』(1992年製作、1993年日本公開)のビジュアルで作ったTシャツは普段も着ているけど、よく声をかけてもらうな。
渡辺
少し前だと『ストレンジャー・シングス』(新シリーズは2022年3月配信開始!)、最近だと『コブラ会』や『マンダロリアン』のTシャツを着ている人を見かける。
鶴谷
ドラマが多いね。
渡辺
サブスクで配信されるドラマはソフト化されないので、LPやTシャツなどが、熱心なファンの人たちの所有欲をくすぐるみたい。
映画やドラマの音楽から発見する
新しい才能
———NetflixやAmazon Prime Videoなど、近年は配信のドラマが人気ですが、そのサウンドトラックもレコード化されるんですか?
渡辺
『ストレンジャー・シングス』以降、大分増えてきて。
鶴谷
スコアや選曲はもちろん、ピクチャー盤やブックレットなど、凝った装丁が素晴らしかった。そろそろ新シリーズが始まるんだよね。
鶴谷
そういえば、映画『スケート・キッチン』(2019年日本公開)って観た?
渡辺
ドラマ『ベティ/スケート・キッチン』としてシリーズ化され、今U-NEXTで観れますよ。
鶴谷
ガールズスケーターの話で、トレーラーもいい感じだったから、観てみたら、すごくいい映画だったんだよね。サントラには、最近のヒップホップやジェイデン・スミスの歌が入っているんだけど、それ以上にスコアが素晴らしてくってさ。
チェックしてみると、なんとLA在住の日本人音楽家のアスカ・マツミヤという人で。
———アスカ・マツミヤさんの経歴を調べてみると、弟の松宮聖也さんと、2018年にBlack Cat White Catという会社を設立されています。テレビCMや映画音楽も手がけていて、2019年に日米合作の『37セカンズ』では、アスカさんが音楽を担当。ベルリン国際映画祭・パノラマ部門観客賞を獲得して、日本でも話題になりましたね。
渡辺
あーあの劇版ですね!よく覚てます!
鶴谷
僕らが知らないだけで、すでにすごい人だったりして(笑)。『スケート・キッチン』と『ミッド90s』とか、スケート映画のサントラは既発曲を使った場合でもセンスがよく、さらにアスカ・マツミヤさんのスコアとか最高なので、レコード化してくれると嬉しいな。
なぜホラー映画のビジュアルTシャツはバズるのか?
渡辺
逆に質問ですが、最近また『シャイニング』(1980年)の双子女子をはじめ、ファッションに興味のありそうな若い人も、ホラー映画系のTシャツを着ているところを見かけますが、いつ頃から流行っているんですか?
———『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)以降、ホラー系のビジュアルがネット上でバズることが多い。みんな興味があるみたいですね。
渡辺
なんでしょうね?『IT』はペニーワイズ(ピエロ)のビジュアルが、イラストっぽいからかな。
鶴谷
確かに! 確かに『ストレンジャー・シングス』をはじめ、イラストのビジュアルが多い。
山崎
サントラのジャケットも、70〜80年代の映画のビジュアルはイラストものばかりだね。ダリオ・アルジェント監督の『シャドー』(1983年。原題:『Tenebrae』)とか不気味だけど、UK盤は黒いTシャツにプリントしたら、かっこいいかも。
鶴谷
UK盤だけ黒で、イタリアや日本盤とジャケットが違うよね。どちらかと言うと日本盤の方が好みかな。
山崎
確かにね。サントラはゴブリンのシモネッティ・ピニャテッリ=モランテによるもの。
やっぱり『ゾンビ』って最高かよ!?
渡辺
アルジェント×ゴブリンといえば、やっぱり『ゾンビ』(1978年。ジョージ・A・ロメロ監督作)ですかねぇ。サントラのジャケットは、国ごとにビジュアルが違いますが、僕は真央さんが持っている日本盤が一番かっこいいと思う。
でも、さすがに女の子が着るTシャツには向かないのか。
山崎
もし女の子が着ていたら、仲良くなれそうな気がするな(笑)。裏ジャケットのゴブリン・マークも最高だよね。
鶴谷
確かに、いいね!
渡辺
イラストという点では、アメリカ盤のオリジナルや再発盤の方がいいかな。
———しかし、日本盤『ゾンビ』の裏ジャケのマーク、凄いですね。
山崎
通称、ゴブリン・マークね。ヨーロッパの民間伝承によく登場する悪霊で。『指輪物語』や『ハリー・ポッター』シリーズにも出てくる。
渡辺
『アンカット・ダイヤモンド』や『ブリングリング』のサントラでも知られるO.P.N.も、こういう悪霊が好きで、ビジュアル使っていますね。
イタリアプログレ界の至宝
ゴブリンってどんなバンド?
———『ゾンビ』のメインテーマ、かっこいいですね!お名前が挙がっているゴブリンというバンドについて教えてください。
渡辺
ダリオ・アルジェント監督作、プロデュース作の劇版を数多く制作しているイタリアのグループ。レコード屋さんでは、いわゆるプログレッシヴロック・バンドの棚に入っています。でも、ロックをはじめ、ジャズやアフリカ、ソウルミュージックなどの要素も兼ね備えていて。
山崎
僕は1990年代に、70年代のゴブリンを結構掘っていて。当時はあまり興味のなかった80年代の『シャドー』などを聴き直してみたら、かっこよかったんだよね。
鶴谷
80年代のアルジェントだと、ジェニファー・コネリー主演の『フェノミナ』(1985年)とか有名だけど。80年代のゴブリンって、音楽的にはどんな感じなの?
山崎
メンバーチェンジを経て、音楽的にはディスコ色が強くなる感じかな。プログレに分類されても、国ごとにスタイルがある。でも、共通してジャズやフュージョン、クラシックからの影響が強いかな。歌ものもあるけど、インストゥルメンタルやインスト・パートが長い。だから、映画音楽と親和性が高いと思うんだ。
渡辺
そもそもハマったきっかけは?
山崎
ゴブリンやマニエル・ゲッチング(ジャーマンプログレの伝説!)に関しては、クラブミュージックの延長上で興味を持って。DJのときにクラブジャズをかけていて、その流れでプログレのジャズの要素、それから機械的でミニマルなビートを聴き、これなら自分もかけられると思った。最初は『サスペリアPART2』(1975年製作。原題は『Profondo Rosso』)の「Death Dies」とか、ドラムンベースみたいな曲だったりして。
渡辺
「Mad Puppet」は、ブルースのようなギターとベースの反復で、そこに不思議なシンセのフレーズが重なって。やはりアメリカのミュージシャンが作るブルースやロックとは一線を画していますね。2018年に『ゾンビ』上映に併せて劇伴を生演奏する公演、翌19年には『サスペリア』と『シャドー』の劇伴を演奏するライブなど。どの公演も完売していて、観にいけませんでしたが…。
イラストジャケットの邦画サントラに
意外と名盤多い!?
———邦画のサントラにも、いいジャケットが多いそうですね?
山崎
再評価が著しいのは、『幸福号出帆』(1980年)。三島由紀夫原作の小説を映画化した作品で、いまだにVHSしかない。山下達郎や竹内まりやとの仕事でも知られる服部克久のスコアが、本当に素晴らしい。
レアグルーヴ的な「二人だけの海」など、ファンキーなリズムとストリングスのアレンジが美しく、どんなシーンで使われているか知りたいから、ビデオデッキを買おうか迷っているんだ(笑)。
渡辺
海外でも人気が出たせいか、値段が高騰し過ぎていて。しかし、遂に今年4月ので再発されますね。真央さんは数年前からパーティでプレイしていますけど、かなり探したんですか?
山崎
店からネットまで探しまくって。僕が買ったときも高かったけど、最近オークションに11万円で落札されていたのには驚いた。
一同
えー!
鶴谷
そこまでいくと骨董品というか、資産価値だ(笑)。
山崎
本当そうだよ。
渡辺
サントラ・ブラザースでDJしているとき、かけている最中のレコードジャケットをブースの前に展示していて。『幸福号出帆』はヨットの写真だと思っていたら、これ絵なんですね。
———応接間なんかにありそうな、絵ですよね。
鶴谷
80年代の邦画で、わざわざ写真を絵に置き換えるといのは珍しいね。アメリカだと結構多いんだけど。
山崎
確かに、邦画では珍しいかもね。
———『黄金の犬』はロゴも含め、個人的に結構ツボですけど(笑)。
渡辺
『ルパン三世』などのスコアで知られるジャズピアニスト、大野雄二先生の作品。
山崎
ジャズファンク/ディスコ・テイストのタイトル曲など、素晴らしいアルバム。実は2年くらい前に再発盤が出て、そのときはLPとTシャツのセット版があってさ。買おうかどうか迷ったんだけど、普段はさすがに着られないと思って、諦めちゃったんだよね。
渡辺
でも、ファッションアイコンになっている若者が着たら、いきなり流行ったりするからさ(笑)。
鶴谷
世の中、なにが起こるかわからないけど、さすがに『黄金の犬』はないか(笑)。