BRUTUS
これまで宿泊したホテルの中で、印象に残る絶景を教えてください。
藤本壮介
普段は街なかに滞在することが多いのですが、モロッコのサハラ砂漠で1晩過ごしたときは、人里離れた何もない状態を満喫しました。
トルコのカッパドキアでは、洞窟を利用したホテルに宿泊。翌日は渓谷を歩き回って風景を楽しみました。
今回の絶景ホテルの中ではサバンナにある〈バード・ネスト〉に興味があります。野生動物が近くに来たりするのかなぁ(笑)。
BRUTUS
絶景と建築の幸せな関係とは?
藤本壮介
圧倒的な自然環境と絶景の中では、その場の環境や状況になるべく負荷を与えないように最小限の建築を考えることになるでしょう。建築物はつくるとき、また建てた後でも、環境に与える負担が大きいですから。
#世界の絶景ホテル で挙げられているホテルは、いずれも雄大な自然と共存するような佇まいをしていますよね。建築は体をギリギリ守るくらいで、人にかりそめの居場所を提供する。建築というより衣服に近い存在です。
大自然の中でスリリングな体験を提供する姿が、絶景と建築の双方を魅力的にするのだと思います。
BRUTUS
絶景のロケーションで建物を設計したことはありますか?
藤本壮介
ちょうど今、ギリシャの島で別荘を新築しています。建物から40mほど先が崖で、エーゲ海が広がっている。大海原に夕日が落ちる景色を楽しめるように窓を設けながら、強く吹きつける風をうまく避けられるように建物を考えました。
外の風景や光を得るため、これまで建物にはガラスが多く使われてきましたが、空気が遮断されて意外と強い存在感がある。一方、日本の伝統的な建築は襖や縁側などでゆるやかに仕切り、外とのつながりが感じられます。
中にいる人を守ると同時に、外の自然には開きたい。矛盾する要求ですが、両者のせめぎ合いで建築は豊かになってきた歴史があります。この別荘ではそんな建築と自然との関係について、強く意識させられました。
BRUTUS
宿泊施設と自然との関係で、考えていることとは?
藤本壮介
何泊かという短い期間で非日常を味わうのがホテルですが、季節で変化する情景を楽しめるといいですね。私は北海道の出身です。
子供の頃は自然環境について深く意識したことがありませんでしたが、冬はマイナス20〜30℃で吹雪の中を通学していましたから、日常的に自然に対峙する感覚は得ていたのでしょう。ふとしたときに見える、周囲の山並みの風景も覚えています。季節や時間による変化は、その地にずっといるからこそ繊細に感じられるものです。
建築に自然を取り入れるというと、グリーンを持ち込む表層的な話になりがちですが、いつ訪れても体験的な深みを得られる方が重要ではないかと考えています。
BRUTUS
街の中で、ランドスケープと建築を考えることはありますか?
藤本壮介
都市の中であっても、隠された風景を探り当て、建築で風景を新たにつくることができないかと考えています。
例えばパリのポルト・マイヨで設計している複合施設では、森が空中に浮いているような建築をつくりました。そこには小さな住居が点在し、木々を通してエッフェル塔が見えるようになる予定です。
BRUTUS
広いテラスを持つモンペリエの集合住宅も風景に関係しますか?
藤本壮介
あの建物からは西側に旧市街が見渡せるので、屋上に誰でも入れるバーを設けました。夕暮れ時の景色はきれいですよ。
ビジネス的には最上階にペントハウスをつくり、高く販売する方が合理的ですが、フランスの建物では公共性とのバランスも求められるので、この形になった。
BRUTUS
もし絶景建築を設計するとしたら、どんなものをつくりたい?
藤本壮介
神々しい風景を前にすると、「何かつくっていいのだろうか?」と悩むでしょうね。でも、絶壁の上に城や修道院がつくられた姿は、とても魅力的だと思います。
人の営みも言ってみれば自然の一部。思想やつくり方がその土地に沿ったものであれば、人工物も時を経て一体感が現れてくる。できれば人里離れた山の上に、集落をつくりたいですね。
道や広場があり、住み着いて働く人がいて、訪れて宿泊する人もいる。人の生活の全体像をつくるような、そして周囲の景観に調和するような営みをデザインしてみたい。