2020年にボカロPとして音楽活動をスタート、24年にバンド編成で『星彩と大義のアリア』をリリースし、ライブ出演も始めた粗品が、セカンドアルバム『佐々木直人』を発表した。ストレートなパンクロックである点は前作と同軸だが、「自分にしかできない音楽をすることが、最近目標になった」のが、大きく変わった点だという。
「前のアルバムは、お笑いで救えなかった人を音楽で救いたいという理念で、“会社員ってこういう苦労あるんかな”“学生ってこういうイヤな思いしてんのかな”みたいに、寄り添いつつ歌詞を書いたんですけど。今回は自分が本当に作りたい曲を詰め込んだアルバムになりました」
その変化は、本格的にライブに出始めたことが、もたらしたのだという。
「ずっとロックをやりたいと思ってたんです。それで、革ジャン着て、アイメイクして、リーゼントでライブやってたんですが、ロックをやりにいってる自分、ほんまにそれでいいんか?もっと自分らしい音楽したいってライブやってる時に思って」
確かに写真の通り、今回はビジュアルも、パジャマ姿に替わっている。
「もう取り繕わんとこって。前日の夜、風呂から上がって着替えたパジャマのままステージに立つ。この格好で、寝癖のままで、ギターをケースなしで裸で持って、新幹線乗って、新大阪駅のタクシーの列に並んで、会場入りしてそのまま出る。それを一回試してみたら、しっくりきたんですよね」
クラシックに造詣が深く、ピアノも弾けて譜面も書ける。なのに、ボカロでもパンクロックでも一貫しているのが「聴く人が“これなら自分でもできそうだ”と思える音楽をやりたい」ということ。
「これはもう、好みの部分が一番大きい。現代音楽でこんなへたなやついないと思うんですよ(笑)。複雑な音を重ねてきれいな声で歌うみたいなのが、流行ってる中で……でも、甲本ヒロトやマーシー(真島昌利)は、3コードで、仲間たちと演奏するだけでロックだぜ、って。それを自分もやりたいっていうのはやっぱり根幹にある」
ただ、粗品の粗削りなパンクロックは、今の音楽シーンで明らかに異端ではある。
「レコード会社の方に“やりたいことはわかりますけど、修羅の道ですよ”って最初に言われました(笑)。TikTokやってる女子中高生が音楽シーンを動かしてるような時代の中ではめっちゃ浮きますよね。バズりを生む踊り手がいたら、頭を下げてカネを払って振り付けを考えてもらって。それが見事にハマって音楽番組に出られる、とか。
それでも……最初にライブをしたのが大阪の梅田クラブクアトロで、あのちゃんのバンド、I’sと対バンしたんです。あのちゃんが僕の演奏を見て“言葉で伝えられないことがあるから、音楽があるんだってわかった”って言ってくれて。すごく感銘を受けたんですけど、“いやいやできてる?俺、それやりたいわ!”って思った。お笑いでは伝わらない、名前がついてない感情とかのために音楽がある、というのを体現したいなと」
全曲の作詞・作曲・プロデュースを手がけ、自身の本名をタイトルに冠したセカンドアルバム。先行配信した「告白」など12曲を収録。ボーカル&ギター・粗品、ベース・藤本ひかり(ex.赤い公園)、ドラム・岸波藍の3人編成のバンドで録音。10月2日~29日、東京、福岡、大阪、札幌、名古屋の全国5大都市のZeppを回るツアー『新世界より』を行う。