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坂口恭平が土のフレンチに舌鼓。土料理を食べると、人間らしくなれる?

「政治的に僕たちは土に戻る必要があるのではないか」──半農生活の悲喜こもごもを深遠なる「土」の哲学に乗せて綴ったnote上のエッセイ『土になる』。その著者である坂口恭平が、五反田の老舗フレンチ〈ヌキテパ〉にて、世にも珍しい土料理のフルコースを堪能。食後、「土食」の魅力をめぐってシェフの田辺年男氏とともに語り合った。

初出:BRUTUS No.925『いつでも!おいしい酒場。』(2020年10月1日発売)

 

photo: Ryu Maeda / text: Yosuke Tsuji

アーティスト・坂口恭平が
土のフレンチに舌鼓

坂口恭平

土のフルコース、ごちそうさまでした!率直にすごいうまかったです。「土を食べる」と聞くと、普通は「えっ」って思うかもしれないんだけど、実は野菜だって土から生まれているんですよね。だから単においしいというだけではなく、野菜の大元を食べているような、すごく嬉しい気持ちにもなりました。

田辺年男

土は野菜の延長だと僕は思っているんですよ。野菜を食べるということは、土を食べるということでもある。

坂口

実は僕も今、畑をやってるんです。だから、野菜を食べるということが土に生きる微生物たちを自分の体に取り込むことなんだということを、まさに実感していたところなんです。

建築家、アーティスト・坂口恭平、〈ヌキテパ〉シェフ・田辺年男
熱心に「土」の魅力を語る坂口さんに共感する〈ヌキテパ〉シェフの田辺年男さん(写真右)。田辺さんはボクサーから、おでん屋……など様々な業界を渡り歩き、最終的に土料理に行き着いた。

田辺

畑はやっぱり楽しいですか?

坂口

不思議だったのは畝を作っている時でした。僕は陶器も作っているんですけど、畝作りのために土に触れた時に陶芸をする時と同じような感覚を得たんです。なんていうか、土が僕に形を教えてくれるんですよね。土が意識を持っていて、僕はただそれに従っていくような。実際、誰に教わることもなく、自然と畝が出来上がったんです。

田辺

坂口さんは野性的ですね(笑)。ただ、そういう動物的な勘のようなものは本来みんな持っているものなんです。

坂口

でも本当に土には意識があると思っています。というのも、毎日のように土とコミュニケーションをとっているうちに、僕が畑に行くと、なぜか虫が空気を読んで、来なくなったんですよ。だから、僕の野菜は虫に食われないんです。

田辺

それはすごい。

坂口

僕自身も畑には靴を脱いで入るようにしています。街で触れていた微生物を畑の土に連れ込むわけにはいかないので。そんな感じで土と対話しながら、目に見えない世界と向き合っていることが、最近はとても心地いいんです。

田辺

土と人の歴史は深いですしね。もともとは日本でも江戸時代末期まで土が食べられていたんですよ。飢饉や不作の時に食べられていたそうですね。鍋に土と水を入れてコトコト煮ると、土の中の砂の部分は重いので下に落ちていくんです。

だから、鍋の上の方だけを掬って食べていたらしい。土にはミネラルが豊富ですからね。お城では戦で兵糧攻めに遭った時などに、城の土壁を割って土粥にして食べていたという話も聞いたことがあります。

坂口

今日も食べていて思ったんですけど、土そのものには味らしい味がないんですよね。だけど栄養素はある。だから、体が疲れてる時ほど、土食がふさわしいと思うんです。猫なんかも腹を下したら土を舐めたりしますよね。

田辺

世界でも内陸部では土食が盛んに行われていました。妊娠中やお産後の女性の食べ物としても重宝されていたようです。

坂口

それも土が無味であることと、関係していますよね。つわりの時は匂いがきついものが、食べられなくなりますから。ところで、僕も最近、土料理を作ってみたんですよ。自分の畑で採れた野菜で作ったサラダに、畑の土をまぶしただけですが(笑)。

田辺

僕も昔、全く同じことをやっていました。30年くらい前にどうにか土を料理に使えないかと思って、サラダの上にパラパラと振りかけてみたのが土料理の最初でした。

坂口

僕の土サラダは子供たちと一緒に食べたんですが、「どう?」って聞いたら「おいしい」って言ってました。僕らはこの畑で生きていくんだからと、家族みんなで土舐めの儀式もしたんです。でも、本当にその時、土への親しみがグッと湧いたんです。

僕はずっと躁鬱病で10年間通院していたんですけど、畑を始めて、土と向き合い始めたら、途端に治ってしまいました。これも土の神様のおかげです(笑)。

田辺

土は薬にもなる。それに土で遊んでいたら子供はきっとグレませんよね(笑)。

建築家、アーティスト・坂口恭平

〈ヌキテパ〉の
“土のフルコース。