尾崎世界観が語る「ミライのテーマ」
『細部に施された繊細なメロディに、背筋が伸びます』
「クリスマス・イブ」や「ヘロン」を筆頭に、子供の頃から自然と耳にしていた山下達郎さんの楽曲。当時は、聴き心地のよさと同時に、そのまま吸い込まれてしまうような漠然とした恐ろしさを感じていました。
それが歌声によるものなのか、メロディによるものなのかはわかりません。でも、直感的に自分が普段聴いている音楽とは異なるものを感じ取っていたことを覚えています。
「ミライのテーマ」をじっくりと聴いてみて、その“恐ろしさ”の理由が少しだけわかったような気がします。それは、その独特な歌唱に起因しています。一般的な歌は、声を吐き出していくようなイメージですが、山下さんの歌は、声を吸い込んでいるような聴き心地です。
だから、耳が持っていかれ、吸い込まれるような感覚になるのだと思います。歌の中で、声が楽器の一つとして重なり合って鳴っていることも、不思議な感覚に誘う理由かもしれません。
一方で、繊細なメロディの動きも印象に残りました。この曲では、全体を通してメロディにそこまで大きな動きはないし、リズムパターンもシンプルです。自分では曲を作る際、メロディを音階の下から上まで大袈裟に動かして、跳躍力に任せてしまう癖があります。
でも山下さんは、わかりやすい大きなうねりに頼ることなく、我慢しながら細部に繊細な動きをつけている。顕著なのはAメロです。音に対する“視力”がずば抜けているなと感じました。こんなところもメロディになるという発見があり、自分には取りこぼしている部分がまだまだあるなと襟を正す思いがしました。
山下さんの楽曲の魅力は、いろんな人があらゆる言葉を尽くして語っていますが、改めて、その曲の良さだと強く感じました。そして、あまり安易には使いたくないのですが、山下さんを形容するには“唯一無二”という言葉しか思い浮かびません。
「ミライのテーマ」を聴いたことで、改めてそのすごみを感じ、幼い頃と理由は違えど今度は同じミュージシャンとして恐ろしくなりました。