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山下達郎新アルバム『SOFTLY』全曲レビュー。岸田繁が語る「OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)」

6月22日リリースの最新作『SOFTLY』の随所にちりばめられた山下達郎サウンドの魅力を、合計15人のミュージシャンたちが完全解説。さらに、併せて聴きたい山下達郎の楽曲も紹介。この一冊で新作を100%楽しもう。

text: Emi Fukushima

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岸田繁が語る「OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)」

山下達郎_OPPRESSION BLUES (弾圧のブルース)
世界各地で続く争乱と圧政への思いを込めた楽曲。各国語のリリックビデオも公開中。

『シンプルで端正な演奏とミキシングの素晴らしさにうなります』

改めて思ったのは、山下達郎さんは素晴らしいギタリストだということ。わかっていたつもりでしたが、「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」を聴いて実感しました。

ギターは、ストラトキャスターでしょうか。シングルコイルならではのトーンと、ピッキングのコントロールの絶妙さにうなりますね。歌声のふくよかさとはまた違った、味わい深いギターのトーンは、ほかの誰とも似つかない山下さんのオリジナリティだと思います。

そして、アルバムのほかの多くの楽曲にも当てはまることですが、今の音楽シーンでは聴くことが少なくなった、シンプルなバンド編成での生音、そして端正な演奏とミキシングの魅力に気づかされますね。

一方で、この曲では世界の情勢に対する鬱屈とした感情をモチーフに詞作をされていることがとても新鮮です。ラジオ『サンデー・ソングブック』を聴いている時にも思うのですが、山下さんの言葉は時にシンプルで真っすぐなメッセージを持っていて。音に関しての職人的なイメージとのギャップが魅力の一つだなとも思いますね。

今、日々のさまざまにうんざりするという方も多いと思いますが、この詞は、誰もが心の奥底に抱える気持ちに寄り添ってくれるものだと思います。

新曲を聴いて、改めて聴き直したくなったのは、「アトムの子」。私は山下さんの作品群の中でもリズミックな構築が心地よい楽曲が大好きで。なかでもこの曲のプリミティブなグルーヴに乗って自由に駆け回るメロディは、その不思議な調性感も相まって、シンプルな言葉に想像力というギフトを添えて私たちの記憶に訴えかけるものがあります。

またほかにも、山下さんに出会ったまさに原点の曲「クリスマス・イブ」も思い出しましたね。中学生の頃、FMラジオから流れてきて、声にも曲にも、一目惚れのような感覚を覚えて。すぐにシングルCDを買いました。細かいパッシング和音やサウンド処理、そして何より虹色のハーモニーを味わうことができる至極の名曲だと思います。

岸田繁のrecommended song:『アトムの子』(1991年)

山下達郎_アトムの子
作詞・作曲・編曲:山下達郎
通算23作目のシングル。ラジオ番組『山下達郎のサンデー・ソングブック』のジングルに使われたほか、2000年にTBS系ドラマ『教習所物語』のエンディング曲に起用された。

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