曽我部恵一が語る「YOU(ユー)」
「従来像を打ち砕く実直なビートに、“ロック”を感じました」
僕が山下達郎さんを“発見”したのは、今回が3回目です。まずは、上京してバンドを始めたばかりの1990年代前半頃。それ以前はパンクやニューウェーブなどの洋楽を中心に聴いていたのですが、はっぴいえんどを好きになって、その流れでシュガー・ベイブとも出会いました。学生バンドらしい粗削りなDIYっぽさがありながら、曲とリズムがとんでもなくいい。そこに惹かれましたね。
そして2回目は、2010年代。シティポップブームの中で、never young beachなどの若いバンドたちが、しきりに『FOR YOU』の良さを語るので、聴き直してみたんです。そしたら、あまりにも今の時代にフィットした音楽であることに驚きましたね。とこんなふうに、過去の曲と時代をまたいで出会い直すというのが、僕の山下達郎作品の聴き方でした。
そして、今回。新譜を発売と同時に聴くのは初めてのことだったんですが、全く知らない新たな達郎さんと出会ったような気がしています。実直な8ビートのロックで、ギターソロもガンガンに挟みながら、「すべては僕のものだよ」「ずっと君のそばにいるよ」と愛を歌う。ここまで情緒的で湿度の高い達郎さんの楽曲を知らなかったので、すごく新鮮でしたし、驚きましたね。
僕の思う達郎さんは、いわば“スーパーディスコマシーン”。人間のあやふやな感情を捨て切って、いかに踊れる、ノレるか、を追求しているイメージなんです。ライブアルバム『JOY』に収録された「SPARKLE」は、無慈悲さが肉体性を帯びた、従来の山下達郎像のピークとも言える作品でした。
それをあっさり覆されたのが今回の「YOU(ユー)」。四つ打ちのディスコアレンジで仕上げることもできたはずですが、あえてやらないところに、強いメッセージを感じますね。かの有名な陸上選手、カール・ルイスみたいに、誰も追いつけないような圧倒的な1等。でもそれでは満たされず、ともすれば少し恥ずかしい一面を晒すことも厭わない山下達郎さんは、ロックだなと、痛感しました。