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山下達郎新アルバム『SOFTLY』全曲レビュー。一十三十一が語る「光と君へのレクイエム」

6月22日リリースの最新作『SOFTLY』の随所にちりばめられた山下達郎サウンドの魅力を一十三十一が完全解説。さらに、併せて聴きたい山下達郎の楽曲も紹介。

text: Daiki Mine

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一十三十一が語る「光と君へのレクイエム」

山下達郎新アルバム『SOFTLY』全曲レビュー。一十三十一が語る「光と君へのレクイエム」
収録曲では最初に発表されたシングル表題曲。2013年公開の映画『陽だまりの彼女』主題歌。

「切なさや悲しみも爽快に突き抜ける、「完璧」な楽曲」

終盤に位置するこの曲ですが、イントロを聴いた瞬間から「完璧」って言葉がよぎりました。達郎さんの楽曲の中でも、爽やかに突き抜けていく切なさや悲しみが詰まった、私の一番好きな側面と言っても過言ではありません。

過去の楽曲で言えば「悲しみのJODY(She Was Crying)」に通じる、センチメンタルだけど包み込んでくれるようなあの感じ。あるいは「マーマレイド・グッドバイ」や「世界の果てまで」とも似た、どうしようもなさを抱えて歩んでいく果てしなさと言いましょうか。

挙げたのはいずれもさよならソングですが、ツヤツヤな声と、誘い込まれるような言葉、アロマティックだけど歯切れのいいビートで、日常がパッとクリアになる心地がします。色気づいた高級素材や目新しさには頼らず、普遍的なものを使ってとにかく丁寧に仕上げていく。そんなシンプルな完全体を追求し続ける達郎さんが存分に味わえる楽曲で、私の心も打ち砕かれました。

今回改めて『CIRCUS TOWN』から順に家で聴き直してみたんです。爆音で(笑)。私が生まれたのは『GO AHEAD!』の年だとか、デビューしたのは『RARITIES』が出た頃と、自分の状況と照らし合わせながら本作に辿り着きました。東日本大震災以降の楽曲は困難に寄り添うようなメッセージの曲も多いですが、今回のアルバムは「僕少(『僕の中の少年』)」に近いものも感じます。チャーミングで、時代を駆け抜けるようなアラウンド90s感がまた新鮮に聞こえてきました。

一番好きな曲なんて選べないです。達郎さんの音楽は好きとか嫌いの次元ではなく、潜在的に組み込まれているもの。両親が1992年まで北海道でレストランをやっていて。まるで『FOR YOU』みたいな常夏の世界観で、おしゃれな紳士淑女がデートに来るようなお店だったんです。そこで達郎さんがずっとかかっていたので、私にとってはキラキラの大人たちに憧れていた幼少期の記憶と共にある音楽です。

一十三十一のcommended song:「悲しみのJODY (She Was Crying)」(1983年)

『MELODIES』山下達郎
「悲しみのJODY (She Was Crying)」(1983年)
作詞:山下達郎 作曲:山下達郎 編曲:山下達郎
7thアルバム『MELODIES』の冒頭を飾った、ハイトーンな歌唱が冴え渡るラブソング。翌年発表のサウンドトラック『BIG WAVE』には英詞版「JODY」として収録。

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