Wear 2021.6.6 Wear 着る 2021.6.6 「ナニコレ?」な珍シューズから、テクノロジーの軌跡を辿る。1970年〜2010年も歴史的珍品 企業は日夜、技術開発に取り組み、時に社会を動かすほどのプロダクトを生む。だがしかし名品誕生の裏には、 試行錯誤の末に生まれた数々の“迷”作の姿が。「ナニコレ?」な珍シューズから、テクノロジーの軌跡を辿る。 illustration: Takeo Chikatsu / text: Naoto Matsumura コンテンツ 1970年代 1980年代 1990年代 2000年代 2010年代 1970年代 NIKE/MOON SHOE(1972)オレゴン州で開催された五輪の陸上予選期間中に発表された「ムーンシュー」。ブランドの創設者の一人であるビル・バウワーマンが、ワッフル焼き器からヒントを得て、滑りにくさと衝撃吸収性を兼ね備えた“ワッフルソール”を開発! 後に様々なモデルに採用されたこの凸凹ソールだが、そのオリジンがほかでもないこのモデル。NEW BALANCE/320(1975)発売年のNYシティマラソンで「320」を履いたトム・フレミング選手が優勝し市民権を獲得。爪先まで紐を通さないという大胆なシューレース構造“インステップレーシング”を初めて採用し、足先の可動域を広げる単純だけど刺さるテクノロジー。このモデルには“N”ロゴがなく、翌年の「M320」が“N”ロゴを配したファーストモデルとされる。NIKE/NIGHT TRACK(1978)ナイキが初めてエアを搭載した記念すべきモデル「テイルウィンド」に似たデザインのアッパーを採用しているのにもかかわらず、その魅力的なアウトソールの溝をなくし、踊りやすさを重視してしまった「ナイトトラック」。ニューヨークに存在した伝説的ディスコ、スタジオ54のために作られたもので、マイケル・ジャクソンがCMで履いたことで一躍話題に。 1980年代 ADIDAS/LA TRAINER(1981)80年代に突入しクッショニング技術はさらに進化。そんな中アディダスは、ランナーの体重や地面の種類に合わせてクッショニングを変えられる革新的シューズを発表。その仕組みはヒール部に組み込まれた3色の硬さの異なるピンを入れ替えるという、正直まだまだアナログな技法……。ピンの抜き差しは専用の鍵で行うという、なんとも原始的な方法だった。LE COQ SPORTIF/TURBOSTYLE(1981)複数のボール状のラバーを施した独自のアウトソールで、弾力性と衝撃吸収性の向上を図ったモデル。まさにボールが跳ねるかのように、地面から伝わる力をはね返す仕組みで、足への負担を減らすと同時に、反発で快適なランニングを実現。もともとアスリート用に作られた一足だったが、80年代初頭のジョギング健康法ブームの影響もあって、一般層からも支持を獲得する形となった。ADIDAS/MICROPACER(1984)ロサンゼルスオリンピックに合わせて発売した「マイクロペーサー」。最大のウリは左足に搭載したマイクロプロセッサーに着用者の情報を入力すれば、距離、スピード、消費カロリーを確認することができること。シルバーの特徴的なカラーもさることながら、右足に鍵や小銭を入れておけるポケットが付いている小ネタが今見ると良い。ASICS/ROTE FIRST POINT L(1986)硬度の違うヒールウェッジをインソールの裏側から踵に差し込み、好みのクッションにできる“C.C.S.(チェンジャブルクッショニングシステム)”を採用した「ローテファーストポイント」。コート競技に特化したラストを採用し、多方向への激しい動きに対応するフィット性も備えた。2003年にはヒールウェッジを風車状にし、クッション性を高めた進化版が発売!PUMA/RS COMPUTER(1986)バイオメカ理論の第一人者カバナー博士との開発により誕生した、ランナーのパフォーマンスを分析してくれる「RSコンピューター」。やたらとインパクトのある右足踵部にはコンピューターチップを内蔵し、距離、走行タイム、消費カロリーを計測。ケーブルでPCに接続してデータを転送。日本は未発売。ADIDAS/ZX1000(1989)ソールの溝とビジブル化したバーで“足の自由”を実現するトルションシステム。そのテクノロジーを初めて搭載したモデルが、1984年から続くZXシリーズの上位ランニングモデルとして登場した「ZX10 00」だ。前足部と踵部を繋ぐプラスチックバーが硬すぎたため、発売当時はあまり売れなかったという。その後、改良を重ね、今ではアディダスを代表する技術の一つに。REEBOK/THE PUMP(1989)アッパー内部に空気を注入し、シューズと足を一体にする“ザ・ポンプテクノロジー”が初めて搭載された、バスケットボールシューズ「ザ・ポンプ」。登場したのは1989年のこと。シュータンに配されたコンプレッサーをポンピングして空気を送る仕組みは、後に柔軟に仕様を変え、テニスやランニングなどあらゆるスポーツカテゴリーで重宝された。NIKE/AIR PRESSURE(1989)「エア マックス」のデザイナー、ティンカー・ハットフィールドが手がけたエアフィッティングバッシュ「エア プレッシャー」。踵部の外付けポンプに専用チューブでエアを注入し、膨張でフィット感を生む仕組み。アッパーではなく、足首が膨らむという新しい試みだったが、お察しの通り軍配はライバル社に上がった。 1990年代 ASICS/GEL-NITE LYTE(1993)“エレクトロニックシステム”を搭載し、足が地面に着いたときに踵に埋め込まれたLEDランプが発光する「ゲルナイトライト」。夜間でも安全にランニングができるとあって、翌年には同機能を搭載した後継モデルも発売し、ひそかな人気を博した。皮肉にもランニングシューズとしての機能が評価され、光らなくなっているのに使用しているユーザーが多かった。PUMA/DISC BLAZE(1993)「ディスクブレイズ」は甲部分に配されたディスクを回転させることでアッパーに内蔵されたワイヤーが均等に締まり、シューズと足を一体化できる“ディスクシステム”を初搭載した元祖モデル。回すだけで簡単にフィットするうえ、衝撃吸収性、反発性などを持つハイクッションソールも採用。多くの競技者が愛用した。ADIDAS/TUBULAR(1993)モデル名の通り、自転車のタイヤ構造をデザインモチーフにした「チュブラー」。ハンドポンプを使って、ソールの外側からエアを入れることでクッションの細かいコントロールが可能に。発売当初、映画『イレイザーヘッド』や『エレファント・マン』などを手がけたカルトの帝王、デヴィッド・リンチがCMを制作。理解不能な映像内容からアメリカで話題に。 2000年代 NIKE/OVIDIAN(2000)インナーブーツを搭載した「オビディアン」は、そのインナーをコンフォートシューズとして使用できるうえ、外側がリバーシブル機能を備えているから、3WAYで楽しめるという一足! インナーを抜き取りアウターを反転、再びインナーをセットすることで、アウトソールの汚れを気にせず着用できるアイデアに感動。だが両面使う猛者はほぼいなかったとか。NIKE/SHOX XT(2001)生体力学の実験を基にミッドソールにバネを入れるという、これまでのエアクッショニングとは全く違う発想で誕生した「ショックス」。4つのパックで構成されたリーフスプリングのヒールユニットを使い、クッショニングと安定性において完璧なバランスを追求。さらにはね返りの高反発のエネルギーが加わることで、ランニング時のスピードアップも図った。ADIDAS/CLIMACOOL(2002)アッパーだけでなく、アウトソールにも通気孔を設ける“360度のベンチレーション”をコンセプトにしたランニングシューズ「クライマクール」。アッパーにはエアメッシュと呼ばれる通気性素材を使用し、シューズ内部にフレッシュな空気を送り続けられるという発想。通気性が良すぎるため、冬場は冷えすぎるとの声もあった。VIBRAM/FIVEFINGERS(2005)強烈なインパクトの見た目だが技術は大まじめ。クッショニングをなくし、足全体で着地する“オールミッドフット走行”を提唱した「ファイブフィンガーズ」。ランニング中の上下動を少なくしエネルギーロスを軽減、体幹を安定させて体全体を使った走りも可能に。人間が本来持つ強い足まで取り戻せるという。NIKE/CONSIDERED BOOT(2005)自社の環境再生プログラム“リユースシュープロジェクト”から生まれた「コンシダードブーツ」。自然素材を編み込んだウーブンをシューズに採用するという他に類を見ないアイデアに心を打たれた人も多い。リサイクル性と環境への負荷を削減するように作られ、生産の無駄を極力省き、リサイクルの障害となる接着剤の使用量を減少させて作っていたのも特筆すべき点。NIKE/NIKE+ iPod SPORT KIT(2006)今見ると子供騙しのようだが、当時は夢のようなシューズだった。ラン中の音楽再生やデータ管理を実現した「NIKE+ iPodスポーツキット」は、シューズに内蔵する小型センサーとiPodに取り付けるレシーバーを用いる“ワークアウトシステム”を採用。走行距離などをその場で確認することができたが、歩幅でカウントしていたので距離にズレが生じるのが玉に瑕だった。 2010年代 REEBOK/ZIG PULSE Ⅱ(2010)「ジグパルス 2」の最大の特徴は“ジグテック”と呼ばれる異様なジグザグ形のアウトソールにある。この独特なソールの切れ込みが着地の際の衝撃を吸収し、反作用で前方に押し出す力に変換してくれるから、長時間のランニングでも疲れないうえ、推進力もアップする。使用禁止を余儀なくされたマラソン大会も出たほど。NIKE/FLYKNIT(2012)ポリエステル糸を使い、精密なニット構造により生まれる「フライニット」。一本の糸を編み込んで作っているから“羽のように軽量”と言われるのは必然! ソックスのように足の形状にぴったりとフィットするアッパーも加わって、まさに履いていないかのような感覚を味わえるのだ。足にしっかり密着してくれることから、履く人の能力を最大限に引き出すのだとか。NIKE/MAG(2016)映画『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』で主人公マーティ・マクフライが着用した、自動でシューレースが締まる未来スニーカーを具現化した「マグ」。2011年に一度デザインのみを再現したモデルが限定発売されたが、映画の設定から1年遅れた2016年にオートシューレース機能“パワーレーシングシステム”を 搭載し再び限定発売。足を入れるとセンサーが反応し自動でシューレースが締まり、上のベルトを外すとシューレースが自動で緩む。NIKE/ADAPT BB(2019)「マグ」の進化版ともいえるモデルで、履いた人の足の形に合わせて機能する自動シューレース調整システムを搭載したバッシュ「アダプトBB」。アプリとペアリングすることでフィット感を微調整でき、個人の異なるシューレースの圧迫感や緩めに結んだときの滑りをなくす革新的なテクノロジーを備えた。 #スニーカー デイリーブルータス #169 スニーカー百景 スニーカー百景。カルチャーのあるところにスニーカーあり! シューズデザインを生み出す才能たち。スティーヴン・スミス Videos 動画 【11/15発売】沁みる映画。 Videos 動画 【11/15発売】沁みる映画。