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アーティストが好きなアーティスト。巨匠・田名網敬一が“天才”と呼ぶ、佐藤 允って?

あらゆるものを体に取り込んでは、作品を生み出すアーティスト。初の大回顧展を控え、目下創作中の田名網敬一さんがとりわけ気に入って、共に暮らすアートが気になって彼の元を訪ねた。

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photo: Keisuke Fukamizu / text: Masae Wako

ポップカルチャーの巨匠も刺激を受ける気鋭の細密画アーティスト

溢れ出る色彩と生命力にくらくらする。今年88歳を迎える田名網敬一は、世界中のクリエイターから愛され続けるポップカルチャーのレジェンドだ。記憶、奇想、欲望、好奇心。脳内に渦巻く刺激を濃密に描き込むことで知られる田名網が、「尋常じゃないことが一目でわかる天才」と話すのが佐藤允。過剰なほどに緻密な線画で注目される、1986年生まれの画家である。

「1枚の絵に100以上の人物や物事が、おかしなくらいびっしりと描き込まれている。例えばおとぎ話の主人公がいたり、美しい青年やポップミュージシャンがいたり。一人一人の表情やポーズにまで、細かな物語が設定されていると聞きました」

絵に封じ込められた物語は、何しろ細かすぎてすぐには読み解けない。それでも得体の知れない力で訴えかけてくるところに、田名網の考える「ずば抜けた表現力」がある。

この日のアトリエには、佐藤による美しいアクリル画《陰影礼賛 通称:夜遊び》も飾られていた。2018年に田名網が中国で個展を開いた際の風景を描いたもの。

「たぶん彼は“自分自身のことがよくわからない”と迷宮を彷徨(さまよ)い続けている旅人なのだと思います。絵に描くことで自身を獲得しようとする切実な探求心が、表現の根底にある」

そんな佐藤の作風を、ジグソーパズルみたいだと田名網は言う。

「一つずつ違う背景を持つピースが入り交じり、隣り合うピースとの関係性によって物語が作られる。一片欠ければガタガタになってしまうほど綿密な計算の上に、絵画が成り立っているんです。そういう創作の在り方には初めて出会った気がするし、僕自身の刺激にもなっていて、アトリエに置いて時々眺めています」

アーティスト・田名網敬一のアトリエ
田名網のアトリエで。コロナ禍に描き始めたピカソの模写シリーズはすでに600枚超え。「いつでも描いていたい。スポーツ選手が鍛錬するように」とこの日も筆を執る。アトリエには好きな作家の作品もあるが、普段はしまっておき、たまに取り出して飾っているそう。点線枠の額装された佐藤允の作品は、鉛筆による細密画。

佐藤 允

佐藤 允(さとう・あたる)
さとう・あたる/1986年千葉県生まれ。田名網が描いたSUPERCARのLPジャケットに感激し、田名網も教える京都造形芸術大学へ。恐怖や恋愛、オブセッションなどパーソナルな題材を描く。ルイ・ヴィトン・マルティエにも収蔵。

Photo by Keizo Kioku ©Ataru Sato, Courtesy of KOSAKU KANECHIKA
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