ポップカルチャーの巨匠も刺激を受ける気鋭の細密画アーティスト
溢れ出る色彩と生命力にくらくらする。今年88歳を迎える田名網敬一は、世界中のクリエイターから愛され続けるポップカルチャーのレジェンドだ。記憶、奇想、欲望、好奇心。脳内に渦巻く刺激を濃密に描き込むことで知られる田名網が、「尋常じゃないことが一目でわかる天才」と話すのが佐藤允。過剰なほどに緻密な線画で注目される、1986年生まれの画家である。
「1枚の絵に100以上の人物や物事が、おかしなくらいびっしりと描き込まれている。例えばおとぎ話の主人公がいたり、美しい青年やポップミュージシャンがいたり。一人一人の表情やポーズにまで、細かな物語が設定されていると聞きました」
絵に封じ込められた物語は、何しろ細かすぎてすぐには読み解けない。それでも得体の知れない力で訴えかけてくるところに、田名網の考える「ずば抜けた表現力」がある。
「たぶん彼は“自分自身のことがよくわからない”と迷宮を彷徨(さまよ)い続けている旅人なのだと思います。絵に描くことで自身を獲得しようとする切実な探求心が、表現の根底にある」
そんな佐藤の作風を、ジグソーパズルみたいだと田名網は言う。
「一つずつ違う背景を持つピースが入り交じり、隣り合うピースとの関係性によって物語が作られる。一片欠ければガタガタになってしまうほど綿密な計算の上に、絵画が成り立っているんです。そういう創作の在り方には初めて出会った気がするし、僕自身の刺激にもなっていて、アトリエに置いて時々眺めています」