髪を切る前の不安と孤独を飾る
髪を洗ってもらい、カットクロスが巻かれ、鏡に映る自分を見る。どっしりとした座り心地のバーバーチェアの安心感とは裏腹に、カット前の「ちゃんとイメージ通りになるかしら?」という不安な気持ちが頭をよぎる。ふと鏡の向こうに、同じようにうつむいた色黒の男が描かれた一枚の絵が視界に入る。

「バーバーにはピッタリでしょう」と樅山敦さん。「2、3年前に永井博さんご本人のインスタで見つけて、もう僕が買うしかないと勝手に思い込んで手に入れました。だって、カットクロスを着けていますからね(笑)。小さな空間なのでこれくらいのサイズ感の絵がちょうどよくて、飾り始めてから店の雰囲気もグッと締まるようになりました。
何より、髪を切りに来てくれた人の不安や孤独感がこの絵には宿っているように感じられて、それがまさに切られる人間の本質を突いていてすごくいいなと思ったんです。僕の仕事はその不安を打ち負かして、満足して帰ってもらうことですから」
小さなバーバーの、小さな絵。お会計のときにまたこの絵を見て、あなたもお疲れさまでした、なんて思ってみたり。店内にはエリック・サティのピアノの調べがゆっくりと流れていた。不安と孤独を抱えつつも、どこか期待を寄せるその表情にもよく合っていた。
永井博
