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H.Takahashiと考える、眠りへ誘う音楽。~アンビエントミュージック編~

今や一つのポピュラー音楽になりつつあるアンビエント。空間や生活に溶け込むサウンドは、睡眠とどのようにつながっているのだろう。自身の体験を基に考察を続けるH.Takahashiさんに尋ねた。


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photo: Shinsaku Yasujima / text: Ryohei Matsunaga

東京・三軒茶屋に立地するアンビエント/ニューエイジ作品を専門に扱うレコードショップ〈Kankyō Records〉。店主のH.Takahashiさんは、自身もミュージシャンとしてミニマルアンビエント作品をリリースし、国内外で高く評価されている。

Takahashiさんの考える眠りとアンビエントの関係性の強さは、自身の体験から来た実感だった。

「ブライアン・イーノさんの音楽などを入口に、ある程度アンビエントミュージックの聴き方を理解して好きになってから、夜寝る前に1枚選んで、部屋を暗くして聴いてみることを習慣にしてみました。しばらくの間、毎日続けていたら、寝る前に小説を読むような感じになってきた。音楽がちょっと暗めになったときに意識が落ち着いていき、いつの間にか寝てしまっているという体験を繰り返すうちに、深くハマっていきました」

その体験がアンビエントミュージックをより深くリスニングしていく積み重ねとなった。

「“眠りのための音楽”をタイトルにしたような作品には、僕は逆に身構えてしまいます。寝させようとする作為性を感じてしまって、眠りに集中できない。かといって、音楽があまりにも内省的だと考えすぎてしまうし、無機質な音楽だと不安にもなる。入眠時には安心感や安らぎといった感情の方が重要だと思うから、ほんの少しでも温かみが感じられるアンビエントミュージックを好んで聴いています」

H.Takahashiさんが選ぶ、眠りと親和性のあるアンビエント音楽シーン初期の作品。1つ目はハロルド・バッドとブライアン・イーノによる共作アルバム『The Pearl』(1984年)。
2つ目はキーボード奏者ハンス・ヨアヒム・ローデリウスによるアルバム『Wenn Der Südwind Weht』(1981年)。「ハロルド・バッドさんとローデリウスさんは、1970、80年代のアンビエントミュージックシーンを代表するレジェンドでもあります」(H.Takahashiさん)

誰かの存在を感じながらいい夢を見るために聴く

シンセサイザーやコンピューターを駆使した機械の音楽というイメージで見られがちなこのジャンルだが、Takahashiさんはむしろ大事なのは“人間の存在”だとも語る。

「イーノさんとも共演があるピアニストのハロルド・バッドさんの作品には、人がちゃんと楽器を弾いて出している“音”を感じます。人の存在を感じた方が、なぜか安心できる。そういう意味では、ドイツのローデリウスさんの音楽はかなり人間的で温かみがあるので、寝るときにリラックスするためによく聴いてます。彼の作品には多少のグルーヴ感やポジティブさ、明るさもある。入眠に向いているというより、寝る前に気分を落ち着かせて、いい夢を見るための音楽なんです」

Takahashiさんには建築家としての顔もあり、空間と音楽の関係は自身のアンビエント作品でも意識しているという。室内空間としての寝室に合う音楽のタイプに、植物を愛することなどをテーマにしたアンビエント作品が挙げられた。「エリック・サティが提唱した“家具の音楽”(日常生活の音に混じり合って、聴く行為を意識しない音楽)にも近い気がしています。実際、寝る前に聴くとすごく落ち着くんですよ」

近年植物が主題のアンビエント作品が増加。人と植物の交流を描いたGreen-House『Six songs for invisible Gardens』。
苔の名前を冠したOmni Gardens『Moss King』。

【Playlist】H.Takahashiが選ぶ、眠りのアンビエントミュージック

1.「Goldregen」Roedelius
2.「Peperomia Seedling」Green-House
3.「Daydream Daydream」Cass.
4.「Time after time」Hiroshi Yoshimura
5.「Hallway Rug」Omni Gardens
6.「Petted」Ulla Straus
7.「The Silver Ball – 2005 Digital Remaster」Harold Budd
8.「Flux Two」Robert Turman