自らを“小規模複合施設”とうたう店舗〈リバーサイドベース〉が昨年9月、川崎の二子新地にオープンした。複合施設というからにはいくつかの業種が大きな施設に揃うわけなのだが、ここは僅か10坪ほどの店舗に賛同者が数名という少々無理がありそうなつくりが極めて面白い。
トロピカル松村の部屋に
踏み入れたかのような空間
まず特筆すべきは編集者のトロピカル松村さんがこれまで移動販売形式で運営してきた〈トロピカルレコード〉が常設されていること。
レコードはもとより、松村さんが長年集めてきたスポーツにまつわる“私物”が売られていて、1970年代のサーフヴィンテージアイテムや、スケートチーム、フライングディスクチームの超レアなユニフォーム、〈ナイキ〉のディスコシューズ「ナイトトラック」など、マニアには喉から手が出るほど欲しい古着をはじめ、VHSや書籍などが見受けられる。
レコードは枚数で勝負するのではなく、あくまでアートを扱うように陳列。「オーナーの目が行き届いた音源に丁寧に触れてほしい。DIGしたい人にとっては物足りないかもしれないけど、自分が長年かけて確立してきたサーフ&スポーツの世界観は楽しんでもらえるはず」と松村さん。
写真家や家具屋さんとも
空間をシェアする
また、店内に整然と並ぶ〈ハーマンミラー〉のシェルチェアや、ミッドセンチュリーのスツール、ランプなどはいずれも主にマイアミから仕入れている横浜の家具店〈ザ・ヌーン〉のもの。
写真家の板倉淳夫さんによるフォトスタジオ兼ギャラリー〈RSBギャラリー〉としても機能していて、これまでに川崎市に由縁のある詩人・黒川隆介さんや、画家の黒沢進士さんの個展、〈クロ〉のデザイナー八橋佑輔さんのデニムの展覧会などを開催。
各々の持ち味がこの小さな空間に調和し、販売されているのがここならではの魅力なのだ。
風変わりな施設〈リバーサイドベース〉をつくったのは、これまでこの場所でアメリカ買い付けのウエアをメインにしたセレクトショップを営んでいた相馬太河さん。
自分の住むこの地をより盛り上げるべく7年続けた業態を一新。花街がルーツにある、お酒好きな人が多いこのエリアのために、クラフトビールを厳選しながら、多くの人が関われるこの場所を考案した。
ブラックミュージックに強いレコード店に勤めていたこともあるだけに、クラフトビールのセレクトはアメリカのストリートカルチャーを感じるものが多い。
「何屋さんですか?」は誉め言葉
何屋にもなれる場所。
「音楽仲間が多いからたまにここでイベントをするんです。あとは仲間のブランドや、飲食店のユニフォームもここで製作することがあるから、よく“何屋さんですか?”って聞かれる。なんでもわかりやすいものがいいとされている時代だから、専門店の逆をいく、理解しにくい店があったっていいと思っています。強いて答えるなら、ここは偏愛主義者が好きなことをする場所ですかね」と相馬さん。
それぞれがバラバラに並ぶ百貨店とは違い、たくさんの個性がひとつの空間で調和する“小規模複合施設”は、コンパクトでも新しい体験が必ず得られる。