長谷川裕也が語る革靴への愛
革靴っていいですよね。「お洒落は足元から」とはよく言ったもので、そこにその人のお洒落への愛着がすべて詰まっていますよね。
僕が、初めて革靴を買ったのは、中学生の時。と言っても、当時は、お金もなかったので、いわゆるファッションの靴好きというか、革靴をよくわかっていませんでした。
それからハマりだして、靴好きが高じて20歳で街中での靴磨きの仕事に就きました。毎日人の靴を磨いて、その傍ら、自分なりに靴のことを深く学ぼうと2年間で古靴ばかりを40足ぐらい買いました。
どれも名のある靴でしたが、当時の僕にとっては、あくまでも実験用。鍋で煮たり、電子レンジで乾かしたり、靴の革の変化をいろいろ試したなあ。細かいディテールも興味深くて、例えば、石畳の多いローマの靴は、底裏に滑り止めとして格子状の傷があらかじめ入れてあったりとか。
靴とのそんな付き合いがしばらく続いて独立し、24歳で店を構えました。それを契機に夢を叶えようと、紳士靴の本場ロンドンのジャーミンストリートにあるジョン ロブ本店に行きました。
狭い店内、熟練の職人、憧れの名靴。かなり緊張しましたが、念願のビスポークを体験。人生初のビスポークは、基本のキャップトウを選んで、通常のラストよりも全体的に細身の仕上げを依頼。約40万円という高額でしたが、最高級の納得のいく一足が完成しましたね。
そこから僕の靴への興味はさらに加速して、コレクションは最高70足まで膨れ上がりました。今は、本当に気に入ったものだけを20足ほどキープしています。うちレギュラーで履いているのは、7足です。
好きな靴のポイントは、ステッチと革の質感
僕はまだまだ若輩ですが、6万足以上の靴を磨き、お客様との会話を重ねるうちに、靴の醍醐味がどこなのかわかってきました。
まずはステッチ。点みたいな細かいピッチのステッチを見ると感動します。なかでも、スキンステッチはその最高峰。数mmの厚さの革のなかに糸を通していくんですよ。表面からは糸が見えなくて糸の跡だけが見える、職人ならではの素晴らしい手法です。
それと素材。肉厚でキメが細かいほどいい。特に昔の靴の革はとても上質で表情がいいんです。チリチリしてるというか、もっちり感があって最高なんです。人間でいうと15、16歳ぐらい。今は、そういう上質な革が入手しにくい時代なんで、なかなか出会えませんね。実際、キメが細かい革は、ひび割れもしにくくてケアも楽なんですよ。もちろん、ライニングの革も大事です。足入れがスムーズでかつ美しいのが理想。「ライニングの革がいいのはいい靴の証拠」です。
実は最近、新たな靴の育て方にハマってまして、専門用語でいうと色抜けです。油性ワックスだけで磨くんです。普通は、油性ワックスだけで磨くと革が硬くなりひび割れます。それがどのくらいで起きるのか、オールデンで実験して3年経ちました。結果的に色落ちして、馴染んできたヴィンテージ感というか、履き古した感じが好きなんです。
革靴の手入れは、最初の3年が重要。新品の靴はそのままおろして履いてはダメなんです。店でストック中に乾燥しているので、買ったらまず、保湿用クリームで潤いを与えてあげる。その一手間で革のベースができます。
今週もたくさんの靴を磨きます。高級靴もあれば、何年も履き込んだ味のある靴もあります。そんな靴に出会えて、囲まれて、この仕事は、まさに僕の天職ですね。