アイルランドのアラン諸島でハンドメイドされた本物のアランセーターを扱う静岡の名店〈JackNozawaya〉。店主の野沢弥市朗さんは、アメリカというよりは英国、英国というよりはアイルランド好き。幾度かの現地での調査研究も交えて、研究書まで刊行するほど強い思い入れを持っている。
そういえばね、今回オーダーしていた分のセーターが、ちょうどアイルランドから届いたんですよ。荷物届いて、箱開けるまで最高の気分ですよ。でも開けて「あちゃー」とか、「オーダーしたのと全然違うじゃん」ってのがありますからね。ある意味、怖いですよ。
でも、今回はまぁまぁな出来です。今回入荷したのは40枚くらいですかね。残り20枚くらいまだ来てないですね……。果たして来るのでしょうか?(笑)
よくごちゃごちゃにされてしまうことがありますが、アランセーターはアイルランドのセーターで、インバーアランは、スコットランドのセーターです。アランのスペルも“R”と“L”でまったく違いますし。
アランセーターも漁師たちが使っていたことは確かですけど、実は現地の男の子が12歳を迎える時にする堅信礼の時に着るのが白いアランセーターだったわけです。一人の男として認められた証しですね。
このようにね、アランセーターには、数々の物語があるんです。柄模様が家紋のように考えられているとか、セーターだけで身元が判別できるとか、編み模様にそれぞれ意味があるとか。真偽のほどはともかくとしてね。
私が英国モノを扱うお店を作ろうとしていたのが1987年。仕入れのためにイギリスの展示会へ行って、ついでにアイルランドも見ようと思って行ってみたんです。そこで、パドレイグ・オシォコンというおじいちゃんとアランセーターに出会いました。
アランセーターっていうのがアイルランドで生まれたセーターってことぐらいは知っていたんですが、まさか昔ながらの素晴らしいもの作りが、いまだに残っているとは知らなかったので驚きでした。そのおじいちゃんも伝統文化の伝道師みたいな風采でしたね。
もちろん商品も素晴らしく、私は強烈に惹かれてしまって、少量を直接買い付けることにしたんです。その時に、アランセーターっていうのはこういうもんなんだよと、おじいちゃんが本や資料を見せてくれて、私は次第にのめり込んでいったんです。
先ほども言いましたが、本物のアランセーターってのは、手編みですから、限られた数しか生産されないんです。手を使うからこそ、一着一着に、ニッターの癖が出るんですね。なんでこのおばちゃんが作ったのだけ売れないんだろう?ってのがあるんです。その人のだけは、いつも売れ残るんです。
それをどうするかっていうと、糸をほぐすんです。糸をほどいて、ほどいた糸をもう一回、別のニッターに編ませるんですね。そうすると、ものすごくいいセーターができる。糸が縮みに縮んでしまって、もう出来上がったら、それは肉厚のどっしりしたセーターになるんです。
昔は、色やカタチなどをこちらから指示することもありましたけど、今は着丈と袖丈だけ。この範囲で作り上げてねって。ものすごく寛容ですよ。お客さんにも「自分のおばあちゃんが孫のために編んでくれたものです。それくらい大きな気持ちで受け取ってください」と言っています。
でも、これだけ起源なり、どう広がっていったのかっていうことがみんなの興味を惹いて、研究がされてて、発祥の地の島でも、いまだに編み続けられているセーターなんて、世界中探してもそうそうないですよ。だから売っていて楽しいんです。同じ話をしててもお客さんも次々と求めてきますから。
アランセーターって何年売ってても、なんで飽きないんだろうねって最近思うんです。きっと店内にかかっているスタンダードな音楽と同じなんですよね。