北海道にシュウマイの専門店をつくる!ついに野望を実現
店主の大村さんは札幌ラーメンの激戦区(豊平区平岸)に本店を構え、市内を中心に数ブランドを展開する『山嵐』のオーナーとして、札幌のラーメン業界を牽引。上質な背脂をたっぷり使用した同店の豚骨ラーメンは、オリジナリティに溢れ、昼時には行列が絶えない人気店だ。ではなぜ今、シュウマイ専門店のオープンに踏み切ったのか。
その理由を訊ねると「北海道にシュウマイの専門店ってほとんど聞いたことがないでしょ。基本的に人がやっていないことをやりたいんです」。実は『山嵐』を立ち上げる少し前の2003年、最初に始めたのは餃子の専門店だったと言う。「当時の札幌には有名チェーン以外に餃子専門店が少なかったので、それならばとやってみました。とにかくやりたいことをやって、ムーブメントを起こすのが好きですね」と語る大村さん。
その後『山嵐』を20年近く営み、店舗を任せられる後進が育ったことも決断の後押しに。コロナ禍で、飲食業界が深刻な人手不足に喘いでいる現実があっても、シュウマイなら対応できると見込んだ。「仕込みをしておけば、あとは蒸すだけ。料理人がいなくても美味しいシュウマイが提供できる」と経営者らしい一面を見せたかと思えば、「何より僕自身がシュウマイ好きなので」と少年のような笑顔。
いつかシュウマイで店をやりたいという思いはずっとあったそうで、大阪や東京の専門店を食べ歩き、試作を重ね、ついに昨年夏、『シウマイハヤマデタベルモノ』をオープンさせた。が、それは今の場所ではなく豊滝地区という、本当に“山の中”だった。店名の由来はこの地にあったが、商いをするには少々山奥(静か)すぎた。半年後の2022年12月には定山渓に移転し、現在に至る。
「専門店」へのこだわり。メニューはシュウマイ3種とライスだけ
シウマイは店名になぞらえて、山の形に。メニューは厳選した北海道産の肉と野菜を、道産小麦100%の薄皮で包んだ、渾身のシウマイ3種だ。「シュウマイはタネをしっかり練って、ややかために成形するのが一般的。うちのはその逆で、やわらかな食感が特徴です。肉の旨味がフワッと広がって美味いですよ」と胸を張る。
とは言え、シュウマイに個性を出すのは想像以上に難しかったようで「海老や蟹をのせたら、美味しいのは当たり前。ニンニクやニラをたっぷり入れたら餃子と変わらないし、汁が多いと小籠包風になってしまう」と、随分悩んだ様子。研究に研究を重ねた結果、ジューシーな鶏肉にショウガをたっぷり入れた「ジンジャーシウマイ」、同じ鶏肉に黒胡椒を効かせた「ペッパーシウマイ」、しっかりとした肉の旨味を感じられる「エゾ鹿シウマイ」を定番に。ほかはライスと瓶ビール、ソフトドリンクのみ。目指していた「専門店」の形ができた。
注文を受けてから蒸して、せいろで提供。ライブ感も魅力
シウマイは注文を受けてから蒸し始め、気温や湿度にもよるが、できあがるまで10〜13分。大きな蒸し器の蓋を開けると湯気がふわりと立ち上り、取り出されたアツアツのせいろごとカウンターに運ばれる。蒸気で汗をかいた肉のツヤ、しっとり密着した薄皮、ごろっと大きなシウマイは見た目にも食欲をそそられる。
ひと口かぶりつくと、じゅわ〜と広がる肉々しい旨味、これは一度食べたら忘れられない味だ。「まだまだこれからたくさんの人に知ってもらって……という段階ですが、食べていただいた方の評判は上々です。いつかこのシウマイを定山渓名物にしたい。それはもう絶対です」。
「出来上がるまで木彫りの熊、どうぞ」。美味しさと一緒に届けたい“記憶”
「出来上がるまで、よかったら木彫り熊を見てください」。シウマイを注文したお客さんに声をかける大村さん。実はこの店、木彫りの熊を展示・販売するギャラリーが併設され、店内でつながっているのだ。
1年ほど前に市内の画廊で手に入れたのをきっかけに、その魅力にはまり、全道各地を巡って集めたという、大小さまざまの木彫り熊たち。ギャラリーには、50年以上前に彫られた貴重な作品のほか、定山渓の木彫家・三好純男さんの作品も飾られている。
「実際に作家さんにも会いに行きました。絵描きさんのタッチがみんな違うように、木彫り熊もそれぞれ個性があって、顔つきはどこか作家さん本人に似ているんですよね」と、語る大村さんはとても楽しそう。一方で彫り師の多くが高齢で、その技術を継承する人が少ない現実を目の当たりにして、危機感を覚えたとも。
若い作家さんの作品を積極的に仕入れるなど販売にも力を入れるが、一番の目的はお客さんと木彫りの熊との接地面を作ることで、北海道の文化と魅力を広めることだという。
「定山渓で温泉に入って、木彫りの熊を見たよね。あの時食べたシウマイ、美味しかったなぁ……そんな記憶として、残ってくれたら最高です」。
シウマイを定山渓の新たな名物にすること。
魅せられた木彫りの熊を多くの人に知ってもらい、その価値を伝えるきっかけを作ること。大村さんの挑戦は今、始まったばかりだ。