情報過多の時代だからこそ
残る言葉を考えてみた
しりあがり寿さんの個展『焚書坑寿』の会場には、今の世の中で焼け残ったとされる言葉が一つずつ板に書かれ、まるで町中華のお品書きのように掲げられている。例えば「信言は美ならず 美言は信ならず」(老子)、「光が多いところでは影も強くなる」(ゲーテ)など、これぞ名言と言えるようなものから「ランバダ」や「スタミナ」、「スウィートネガティブ」(しりあがり寿)など、しりあがりさんいわく、人生を変えるほどの価値のある言葉ではないけれど、なんだか気になるものまで。その数はおよそ50にも及ぶ。しりあがりさんは、なぜ今、言葉に注目したのか? その理由を本人はこう話す。
「ツイッターをはじめとするSNSの画面をスクロールすると、まるで頭の中に集中豪雨のように言葉が降ってくる感じがして、見ているうちに肩こりがひどくなったんです」
貴重な情報や新しい視点を提供してくれる大切な言葉の中に、デマやウソ、誹謗中傷が混ざる。しりあがりさんはその状況を言葉まみれだと評する。だからこそ、一度すべてを焼き払ったことにして、そこから自分にとって残る言葉を考えてみるのもいいかなと思い、今回の展示を企画・開催した。
「そしたら若い頃感銘を受けた名言からヘンテコな言葉までいろいろ残っちゃって」
かつて戦争が終わると外来語が増え、ITの時代になればIT用語が増えた。また、メディアが細分化することで、独自の表現やネットスラングが生まれている。一方で今まで常識だったような言葉は淘汰され、どんどん通じなくなっていく。
「社会が変われば言葉も変わる。その変化のスピードや勢いがネットの時代にはどんどん速く激しくなっている感じがして。そんな言葉の変化のダイナミクスには畏敬もあるし、“豆食ってチョエ~”みたいな意味のない変な言葉は、自分が死んだらこの世に残らないかと思うと寂しくもあります(笑)」
広がることはもちろん消費されることも速い時代に、果たして焼け残った言葉とは⁉