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しりあがり寿の個展『焚書坑寿』で考える。言葉まみれの世の中で、焼け残る言葉とは?

軽妙洒脱な絵に批評的な視点を織り交ぜた作風で、長年にわたり活躍してきた漫画家がしりあがり寿さんだ。最近は言葉に注目し、2022年10月30日まで渋谷の書店〈NADiff modern〉で個展『焚書坑寿』を開催している。会場には四方を焼かれた板が並び、焼け残った箇所には自身の言葉をはじめ、古今東西の名言や格言、和歌、俳句、小説の一節などが記されている。「SNSを中心に言葉まみれになっている今の世の中で、焼け残る言葉はなにか考えてみたら、こんな感じになりました」

photo: Wakana Baba / text: Hiroya Ishikawa

情報過多の時代だからこそ
残る言葉を考えてみた

しりあがり寿さんの個展『焚書坑寿』の会場には、今の世の中で焼け残ったとされる言葉が一つずつ板に書かれ、まるで町中華のお品書きのように掲げられている。例えば「信言は美ならず 美言は信ならず」(老子)、「光が多いところでは影も強くなる」(ゲーテ)など、これぞ名言と言えるようなものから「ランバダ」や「スタミナ」、「スウィートネガティブ」(しりあがり寿)など、しりあがりさんいわく、人生を変えるほどの価値のある言葉ではないけれど、なんだか気になるものまで。その数はおよそ50にも及ぶ。しりあがりさんは、なぜ今、言葉に注目したのか? その理由を本人はこう話す。

「ツイッターをはじめとするSNSの画面をスクロールすると、まるで頭の中に集中豪雨のように言葉が降ってくる感じがして、見ているうちに肩こりがひどくなったんです」

しりあがり寿

貴重な情報や新しい視点を提供してくれる大切な言葉の中に、デマやウソ、誹謗中傷が混ざる。しりあがりさんはその状況を言葉まみれだと評する。だからこそ、一度すべてを焼き払ったことにして、そこから自分にとって残る言葉を考えてみるのもいいかなと思い、今回の展示を企画・開催した。

「そしたら若い頃感銘を受けた名言からヘンテコな言葉までいろいろ残っちゃって」

かつて戦争が終わると外来語が増え、ITの時代になればIT用語が増えた。また、メディアが細分化することで、独自の表現やネットスラングが生まれている。一方で今まで常識だったような言葉は淘汰され、どんどん通じなくなっていく。

「社会が変われば言葉も変わる。その変化のスピードや勢いがネットの時代にはどんどん速く激しくなっている感じがして。そんな言葉の変化のダイナミクスには畏敬もあるし、“豆食ってチョエ~”みたいな意味のない変な言葉は、自分が死んだらこの世に残らないかと思うと寂しくもあります(笑)」

広がることはもちろん消費されることも速い時代に、果たして焼け残った言葉とは⁉

しりあがり寿