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市内全域が国立公園。志摩の大自然と歴史に触れるとっておきの旅

三重県の志摩市は市制20年だけど歴史は古く、8世紀に編纂された万葉集にも詠われているエリア。そして、まるごと国立公園に指定された自然豊かな場所。海と山、そして歴史をゆっくり堪能できる志摩時間を過ごしてみるのはどうだろう。

Photo: Yosuke Tanaka / text: Yusuke Nakamura

伊勢神宮からは車で30分ほどの三重県の志摩市。お伊勢参りに行っても、そこで足が止まっていたのであればもったいない。ここは全域が国立公園に指定されているエリア。つまり海もあり山もある。もし自然を満喫する旅をご所望なら、ぜひともお勧めしたい場所だ。

海もあり山もある。なのだが、志摩市は半島の隅々まで道路が整備されていることが特徴でもある。国立公園内だが、住居を含め民有地の割合が非常に高い、国内でも珍しいエリア。つまり保護されている自然と、暮らしが共存する。それが志摩ならではの魅力を生み出している。

憧れの志摩観光ホテルに滞在する

英虞湾(あごわん)を一望できる、賢島の丘の上にあるのが、“シマカン”の愛称で知られるリゾートホテル、志摩観光ホテル。2016年、G7伊勢志摩サミットが開催され、オバマ米大統領など各国の首脳陣が宿泊したことでも知られている。

ホテルは、ザ クラブ、ザ クラシック、ザ ベイスイートの3つの棟から成り、朱色のザ クラブが1951年の開業時の最初の建物。ロッジのような雰囲気で、かつて鈴鹿の海軍の集会所だった建物を移築したのだそう。

パブリックスペースであるザ クラブ、そして宿泊棟のザ クラシックの設計は建築家・村野藤吾によるもの。自然環境との共存をテーマとした設計で、全体的に和と洋の折衷のような様式のモダニズム建築は、歴史を感じさせつつも時代に取り残されない、気品と風格のある空間となっている。

もうひとつの宿泊棟、ザ ベイスイートには英虞湾を360度見渡せる屋上庭園がある。自然の中にホテルがあり、そして島の中に建てられていることを実感できる庭園だ。ここから志摩ならではの豊かな自然風景を存分に堪能できる。

〈志摩観光ホテル〉ザ ベイスイート
ザ ベイスイートの屋上庭園からの眺め。複雑な地形で湾が入り組む英虞湾が一望できる。

一生の思い出になる、海から見るサンセット

小さな湾が複雑に入り組んだリアス海岸である英虞湾。この湾には大小合わせて64もの島がある。その島の間を縫うように走る、小船に乗ってみてはいかがだろう。通称ジャングル・クルーズ。そう呼ばれるのも納得。点在する島を縫うように進み、自然をダイレクトに体感できることがなによりの魅力だ。

季節や天候、気圧によって一日たりとも同じ景色はない、海と島と空だけの時空間。訪れた日は夕陽が沈む、なんとも神々しい光景を拝むことができた。いわば海照らす、いや天照らす、な夕景。ここが世界の中心のような気さえもしてくる。志摩の自然が生み出す絶景はぜひとも体験してほしいところ。

自然と暮らしの中にある神様に寄り添う

志摩市には神様が祀られたスポットが数多くある。有名なところでは恵利原の森にある、天の岩戸。神話では天照大神が隠れ住まわれた、と伝えられている場所だ。

ひんやりする、だけでなく気配までが一変するような森を進むと、鳥居と水穴が表れる。写真から想像していたよりも小さい、けれどそれがより神話の真実味を帯びてくる。自然に寄り添うように整備された森を歩いていると、すっと背筋が伸びてくるようだ。

阿児(あご)の街で車を走らせていると、海辺の中に立つ鳥居に遭遇。ここは立石神社。浅海には高さ2mと0.6mの夫婦岩(立石)があり、伊勢神宮内宮の別宮である伊雑宮(いざわのみや)の禊場なのだそう。小さな神社だが、祭りが行われるなど地元の方たちに日々崇められている。

志摩の歴史は古く、伊勢神宮との関わりも少なくない。むしろこちらが起源だという説も。ともかく地域の生活の中にこのような神社と行事が溶け込んでいる。

志摩市は20年と若くても、歴史は古い

志摩市は平成の大合併で5つの町が合わさって誕生。2024年で市制20年となる。市としては新しい。けれど、この土地の歴史は古い。とてつもなく古い。志摩市歴史民俗資料館では1万年以上前、旧石器・縄文時代からの志摩の暮らしを紹介している。

展示室には古墳の出土品から真珠、海女さんの道具まで、見入ってしまう志摩の文化財がずらり。そして、祭りや行事ごとなどの風習を伝える資料も数多く展示されている。古くから自然と共生してきた地域の暮らしが垣間見えてくるようだ。

見どころたくさん、波切(なきり)のまち

志摩市の南東部、波切の岸壁に立つ大王埼灯台。昔から波切は、荒波が打ち寄せる難所であったため、昭和2年にこの白亜の灯台が建設された。周囲は迷路のような入り組んだ路地や港があり、全盛期に比べると少し寂しいようだが、真珠店や干物店などが立ち並んでいる。

そこから歩いて15分ほどの山の上には波切神社がある。家造り、国造りの神様を祀る神社で、アドレスは波切1番地。港からかなり急勾配な山を上がる参道の石造りも歴史を感じさせる。英虞湾の穏やかさとはまた違う、山と海が堪能できる頂上からの景観はいわずもがなだ。

海と山の魅力を味わえる志摩市。8世紀に編纂された万葉集では、御食国(みけつくに)として朝廷に海産物を納めていたと詠われている。そんな自然の幸を発端とする、志摩ならではの歴史は今も続いている。伊勢参りだけでなく、知られざる志摩参りのツアー、ぜひとも提案したいところだ。

看板
元・真珠養殖場だった場所が民宿やレストランになっている場所も多く、そのアプローチを含め、趣のある景色が楽しめる。