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藤森照信+中谷弘志設計〈ラ コリーナ近江八幡〉客と従業員、自然が仲良くなる社屋

企業にとって社屋は、会社を体現して社会との接点を持つ重要な建築物。〈ラ コリーナ近江八幡〉〈社食堂〉は違った個性で社内外にメッセージを発信する。社会に開く会社・オフィスには、会社の信念と社会への眼差しが詰まっている。

photo: Kiyoshi Nishioka / text: Jun Kato

滋賀県近江八幡市
〈ラ コリーナ近江八幡〉

駐車場から生け垣をくぐり抜けると現れる、大きな三角屋根の連なりが草で覆われた建物。背後の山並みと一体となった光景に、老若男女の来訪者は感嘆の声を上げる。和洋菓子を扱う〈たねや〉グループの施設〈ラ コリーナ近江八幡〉はこのメインショップから始まり、隣接したグループ本社の建物などが続けて完成した。設計をしたのは、建築家であり建築史家の藤森照信。自然素材や植物を取り入れながら独創的な作品を世に送り出してきた彼が、企業建築の傑作を生み出した。

クスノキの大木展望台 イラスト
クスノキの大木を取り込み、展望台を抱く姿を描いた。

メインショップと本社、カステラショップなどは水田を取り囲むように配置。それぞれの建物をつなぎながら、草屋根を抱いた回廊が巡っている。「最初からすべてが決まっていたわけではなかった」と藤森は心底楽しそうに振り返る。社長からはメインショップの2階一部を応接室として、ショップやカフェを訪れる人にも見てもらいたいと要望されたという。しかし、来訪者があまりに多く、その構想は変更してカフェを拡張。さらに同敷地内への本社移転構想も、当初の計画から拡張となった。これが楕円形のボリュームをした塔と巨木を抱く本社屋である。

藤森によれば、塔は木のイメージ。地上4階の高さの頂部に上ると展望室とバルコニーがあり、敷地全体を見渡すことができる。屋根に葺かれた銅板はすべて、手で波形に折られたもの。社員や地域の学生も参加して、自由曲面に一枚一枚張られていった。藤森と共同設計した中谷弘志は「先生が現場に来られ、自ら手を動かして指導すると、職人も参加者も興が乗って楽しい作業になる」と言う。

水田越しに見る銅屋根の全景
水田越しに見る銅屋根の全景。左手が展望室で、右手にクスノキ。
ラ コリーナ近江八幡 水田
水田を囲むように建物が配置された。

建物の片側に立つクスノキは、近隣の神社旧参道に生えていた元御神木を移植したもの。直径1.5m高さ11mほどの巨木が、屋根から突き出るように生え、建物にはいっそう強烈な個性が生まれている。「建築を緑と仲良くさせてあげたい、というのが私の大きなテーマ」と語る藤森。ショップも本社屋も不思議な存在でありながら、周囲の自然とすでに一体となっている。

本社屋の内部は、残念ながら〈ラ コリーナ近江八幡〉の一般客の見学はできない。横長のガラス窓で開けたオフィスに勤務する社員からは、メインショップや水田、回廊とその先の八幡山の木々が眺められる。「客商売をする会社にとって、売り場が社員のすぐそばにあるという臨場感は大切だと思いますよ。最近では少し珍しいかもしれませんが」と藤森。

企業の顔としての建物が少なくなっている現在、〈ラ コリーナ近江八幡〉の建物群は対極にあるだろう。顧客と密に接し、地域の自然と一体となる建物は、ブランドの価値を高めて企業精神を深める一翼を担っている。

ラ コリーナ近江八幡
〈ラ コリーナ近江八幡〉で最初につくられたメインショップ。高麗芝で屋根が覆われている。